『ウェビナー報告日誌 2020「GP Road Map」編 vol.5 ― 実践的なカウンセリングスキル ―』

 

オーストラリアのへき地において、三十年間以上にもわたり総合診療医として地域を支えてきた経験を持つロナルド先生から、実践的な総合診療のスキルや考え方について教えていただく『GP Road Map』。

 

全十回コースの最後を飾る今回は、「多忙な医師のための実践的なカウンセリングスキル」と銘打ち、へき地において多忙さゆえに時間に追われがちな総合診療医にとって、実践的かつ効果的なカウンセリングの方法やコツについて講義が行われることとなりました。

 

 

 

 

限られた時間的な制約や「医者と患者」という関係性の中で、最大限に効果的かつ効率的に患者の抱える問題に対処する上で重要な考え方や手法などについて、ロナルド先生の豊富な経験に基づいた知見が、研修生たちと共有されました。

 

そんな今回の講義の概要から幾つか抜粋し、以下に紹介させていただきます。

 

 


 

 

 

「実践的なカウンセリングスキル」とは?

 

 

「効果的なカウンセリング」とは、患者の健康状態を改善することに焦点を当てるものであり、多忙な病院における一般的なカウンセリングでは、「特定の目的」に的が絞られることとなる。

 

例)

 

  ・健康的なライフスタイルの増進

 

  ・生活習慣の改善

 

  ・服薬アドヒアランスの改善

 

  ・グリーフ・カウンセリングなど、精神的な健康問題への対処

 

 

なお、経験豊富な医師の多くは、特定の状況に応じた特定の対処法やコツを開拓していく。

 

 

 

 

 

「カウンセリング」という概念について

 

 

一般的に「カウンセリング」とは、

 

  ・助言を行うこと

 

  ・他者の言動をより良い方向へと変化させるために意見や指示を伝えること

 

 

以下のように捉えられているが、しかしながら、「カウンセリング」とは本来「患者が自身の抱える問題を掘り下げる手伝いをするための治療行為」であり、「医師から直接の指示を受けなくても、患者が自分自身の意思決定を行えるようにする」ことを目的としたもの。

 

 

あくまでも「問題解決のサポート」が目的であって、「精神分析」を行うことが目的ではない。

 

 

 

 

 

簡潔な介入(Short Intervension)

 

 

多忙なクリニックにおいては、医師が患者ひとりに割ける時間が少なくなってしまうため、患者を助けるために「簡潔な介入(short intervension)」を用いる必要が生じることとなる。

 

 

簡潔で効果的な提案や助力は、しばしば患者の行動(習慣)を改善する上で非常に効果的な手法となる。

 

実際、オーストラリアでは、診察の際に「煙草のことについて少し質問したり、話を聞いたりするだけで、年間5%もの患者が禁煙することに成功している。

 

 

 

備考:

 

患者がもっと長いカウンセリングを受けることを望んだ場合には、特にそれが精神的な健康にかかわる問題であったならば、改めて診察の予約を取ってもらうか、専門家に紹介するようにすると良い。

 

 

 

 

 

実践的なカウンセリングモデル「PLISSIT」

 

 

実際に日々の診療の中でカウンセリングを行う際には、系統立てられたアプローチの方法(カウンセリングモデル)がとても役に立つ。

 

 

ただし、カウンセリングモデルは無数に存在しているため、まずは幾つか実践してみて、医師として経験を積む中で、少しずつレパートリーを開拓していくと良い。

 

ここでは、簡潔で覚えやすく、難しい状況や慎重に扱われるべき状況にも適用できるカウンセリングモデルの一例として「PLISSIT」を紹介する。

 

 

 

1.Permission(承認・受容)

 

患者からの相談を受け入れる姿勢があることを、思いやりをもって明示する。

「このことについてお話するのは、さぞお辛いことと思います」

 

 

2.LImited information(基本的な情報の提供)

 

患者が抱える問題に関する基本的な情報だけを提供する

 

 

3.Specific Suggestion(明確な提案)

 

より具体的な治療方法などを検討・提案する

 

 

4.Intensive Therapy(集中的な治療)

 

専門家への紹介を検討する

 

 

 

一般的にGPは、その分野に関する専門的なスキルを有していない限り、最初の三項目だけを実施する。

 

 

 

備考:

 

 

▷ 特有のカウンセリングスキルが必要とされる分野・領域の例

 

  あらゆる危機的な状況 - 突然降って湧いた悪い知らせなど

 

  死別や悲嘆

 

  あらゆる病気や疾患(特に深刻な疾患)

 

  末期疾患や緩和ケア

 

  幼児における知的障害(家族による支援)

 

  結婚生活(夫婦関)における問題

 

  性機能障害

 

  慢性疼痛

 

  不安とストレス

 

  不妊

 

  性的虐待や児童虐待

 

  親しいパートナー間での暴力

 

  不眠症や他の睡眠障害

 

 

 

 

 

例:うつ病患者における「PLISSIT」の適用

 

 

Permission(承認・受容)

 

「その気持ちを打ち明けるのは、本当にお辛かったことでしょう。私があなたに知っておいていただきたいのは、うつ病は多くの人にとって一般的な問題だということです。あなたがそういう気持ちであったとしても、それを理由にあなたのことを判断することはしません。だから、この件については、いつでも私に話してくれて構いませんからね」

 

 

 

LImited information(基本的な情報の提供)

 

「うつ病というのは非常に一般的ですが、同時に治療可能な症状でもあるのです。(治療するための)支援も提供されています」

 

 

 

Specific Suggestion(具体的な提案)

 

「うつ病は、投薬と支援によって治療することが可能です。周囲に知られないように配慮した上で、専門的な治療を受けられる病院(施設)を紹介したいと考えています。こちらが、その病院(施設)のパンフレット(ウェブサイト)です。もし予約を取る前に何か助けが必要になったならば、この電話カウンセリングサービスを利用するか、また私に会いに来てください」

 

 

 

Intensive Therapy(集中的な治療)

 

投薬やカウンセリングなど、うつ病への治療を実施する。

 

 

 

 

 

苦悩する人々のための10のコツ

 

 

  1.自分の感情を表現する

 

  2.そのことについて、友人と話し合う

 

  3.今この瞬間、この状態(状況)に集中する

 

  4.一度に一つの問題だけについて考える

 

  5.問題解決に向けて、てきぱきかつ断固として行動する

 

  6.自分自身と自分の思考をなるべく忙しくしておく

 

  7.他の人たちを妬んだり、非難したりしないようにする

 

  8.毎日、体をリラックスさせる時間を確保する

 

  9.できるだけ日々の習慣を守る

 

  10.助けが必要な場合には、かかりつけ医に相談する

 

 

 

備考

 

悩みを抱えて苦しんでいる状態の時は事故を起こしやすくなっているため、運転する際には慎重になり、事故を避けるよう気を付けること。

 

 

 

 

 


 

「『医療』とは、『科学』と『思いやり』とが結合した分野である」と、ロナルド先生は講義の最後で語られましたが、その言葉の通り、今回の講義において紹介されたスキルや考え方は、どれも「合理性(=科学)」と「思いやり」とが上手く融け合って形となっていたものばかりだったように思われます。

 

 

 

なお、講義の最後では、「何かに困った時はもちろん、オーストラリアを訪れる時など、いつでも連絡してほしい」と、間もなく一年間の研修を終える第4期生の先生方に、ロナルド先生から激励の言葉が送られました。

 

また、研修生の先生方からもロナルド先生に、一年間の尽力に対する感謝の気持ちが伝えられ、今期の『GP Road Map』も、和気あいあいとした雰囲気の中で無事、幕を下ろすこととなりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

The GP Road Map, one of the regular monthly webinars lectured by Dr. Ronald McCoy focusing on giving instruction about a wide range of skills and knowledge required for GPs in rural and remote areas, was conducted the other day.

 

 

Actually, that was the last round of the webinar and “Practical Counselling Skills for the busy doctor” was set as the theme. The registrars intensively learned about the important approaches or ways of thinking in providing a good counselling with patients in their busy days.

 

Thankfully enough, Dr. McCoy kindly shared a lot of tips based on his extensive experiences on how to deal with a wide variety of patient’s problems as effectively and efficiently as possible in time constraint or limited relationship between patients.

 

 

 

 

At the very end of the lecture, Dr.McCoy and the registrars exchanged affection with each other: he gave an encouraging message to the registrars with words of thanks and registrars also expressed their deep appreciation for his one-year devotion to Dr. McCoy.

 

Finally the screen was covered with relaxed atmosphere and everyone’s smiles;  all the 4th registrars were fortunately able to complete the course in happy mood.

 

 

 

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