もみの木は残った

クリニックHPより

福島県郡山市に、順天堂大学野球部の後輩、福井謙がクリニックをオープンした。

その名も「もみの木クリニック」。

 

「マジ真剣に勉強したいっす」

研修医になったばかりの頃に言った福井の言葉は力強かった。

もう10年以上も前のことである。

 

いまや立派なクリニックの院長になったのだから、10年というのは人を成長させるのに十分な年月である。

現在、家庭医療指導医、マンモグラフィー読影医、そして介護支援専門員(ケアマネ)の資格を有している。

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郡山市からタクシーで約15分。東京駅から1時間30分もあれば到着する。

鳴神(なるがみ)のパチンコ屋アラジンの前にある。

 

玄関外には福井が出て待っていてくれた。

 

「ちわっす」

順天堂の野球部時代にガストでたらふく飯を食わせた恩を、今でも感じているらしい。

まず目に付くのが、クリニックの壁にあるLEDのもみの木の看板である。

パチンコ屋アラジンに負けないくらい立派な看板である。

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医科・歯科と看板がかかっており、

「内科・小児科・婦人科・皮膚科・外科・訪問診療・各種健康診断」とある。

歯科は「一般・小児・矯正・在宅・検診」とある。

堂々と掲げられるのは、やはり10年間しっかり勉強したためであろう。立派だ。

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そして、クリニックの窓には、ユニークな絵と吹き出しがある。

サラリーマンらしきお父さんの絵には、

「水虫・糖尿病・ストレス・トイレが近い・禁煙したい・気分の落ち込み・血圧・腰痛」とある。

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若い女性が赤ちゃんを抱いている絵には、

「ダイエットしたい・貧血・むくみ・ピアス・生理の異常・オムツかぶれ・あせも・虫さされ」とある。

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小学生くらいの男の子の絵には、

「切り傷・ニキビ・アトピー・発熱・腹痛・喘息」とある。

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おじいさんの絵には、

「口の渇き・歯石・虫歯・歯周病・口臭・ホワイトニング・入れ歯・美しい歯にしたい・歯の矯正」と、

これは主に歯科部門である。

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おばあさんには、

「巻き爪・骨粗しょう症・更年期・物忘れ・不眠・イボ・皮膚の乾燥」とある。

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なんか、サザエさん一家をすべて診ているような雰囲気の絵であり、

まさに「家庭医療」であり、診療の幅の広さは「総合診療」である。

 

クリニックの中に入ると、吹き抜けの天井から明るい光が指している。

待合室には真っ白い壁があり、そこにプロジェクターで投影しながら、

地域の方々に10分間の健康教室をするのだそうだ。

 

総合受付は、なんとなくカラオケボックスのカウンターを

思い出させるような明るい雰囲気で、はやく診察室に入りたくなる。

歌はさすがに聞こえないが、診察室からは患者さんの大きな笑い声が聞こえてくる。

冗談好きな彼らしい診察風景である。

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診察室の机には、アンパンマンと眼底鏡、耳鏡が転がっていた。

高知大学家庭医療学講座の阿波谷敏英教授は、地域で働く医者はアンパンマンになれと指導する。

アンパンマンは、決してウルトラマンのような大技はないが、

いつも助けてくれる仲間がいて、事件があろうがなかろうが、まちをパトロールしている。

相手が傷ついたら、自分の顔を食べさせる。

自分が傷ついたら、ジャムオジサンが助けてくれる。

「人から気軽に声をかけてもらうには、医者はヒーローになってはいけない」

は岐阜時代の福井謙のお師匠さんの言葉らしい。

「Be humble(謙虚たれ)」彼の診察室にお師匠さんの書いた色紙が飾ってあった。

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裏廊下は広く、水虫やおりものの検査をする顕微鏡があり、ちょうど水虫のKOH検査をしていた。

子宮頸がんの検査(パップスメア)や子宮体がんの検査用ブラシも揃っている。

産婦人科医の義父と一緒に4年間働き、直々に指導を受けたそうだ。

イボ治療に使う液体窒素を指しながら

「これ子供には痛いんで不評なんですよ~」と。

回数はかかるが痛みの少ない、トリクロロ酢酸が戸棚に常備してあった。

福井らしい、きめ細やかな対応である。

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設備は、福島ならではの甲状腺エコーもできる精密なポータブルエコーや、

在宅医療にも使用可能なポータブルのレントゲン装置、

胃カメラや大腸カメラ、検診用の聴力検査や視力検査まである。

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受付を挟んで反対側は、歯科の診察室である。

金丸貴浩歯科院長は、福井と駿台予備校の浪人時代に夢を語り合った大親友である。

「先生、痛いです!」と気軽に言えそうな優しさと誠実さを兼ね備えており、

福井と二人三脚で、在宅診療もしている。

名コンビであり、一緒にいて居心地が良い。

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スタッフも、テキパキと働き、カラオケボックス改め、

ツタヤのレンタルショップを思い出させる雰囲気である。

しかも、みなさん地元出身者であり、情熱(パッション)を持っている。

立ち話をすると面白い。福島弁がまた温かい。

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壁には新聞記事が2つ掲載されてあった。

ひとつは、「自宅で暮らすことも一つの選択肢に」という福井の記事。

もうひとつは、「応急手当 真剣に学ぶ」という地元紙に掲載された記事。

地元の小学生に、身の回りのもので応急処置をすることを体験してもらった、という記事である。

まだ学校医になる資格は得られていないが、すでに地元密着のクリニックになっている。

「地域住民のために、津波が来ても逃げない医者になれ」とは、

福井と私の共通の師匠の言葉である。

もみの木クリニックの名称の由来に似ている。

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福井謙の好きな俳優に高倉健がいる。

以前、NHKのプロフェッショナルに出演した高倉健が、

山本周五郎の『樅ノ木(もみのき)は残った』を愛読し、ある箇所には赤線が引いてあると語っていた。

 

火を放たれたら手で揉み消そう、

石を投げられたら体で受けよう、

斬られたら傷の手当をするだけ、

–どんな場合にもかれらの挑戦に応じてはならない、

ある限りの力で耐え忍び、耐え抜くのだ

もみの木は残った

この「もみの木」のように、このクリニックは地域住民を守るに違いない。

そして地域住民も、この「もみの木」を大事に育てていくことだろう。

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  1. うめちゃん より:

    近所にこちらに掲載されている病院ができました。こどもがいるのですが、私は車がないので、こうした総合病院が近くにできたことで本当に助かっています。小さなこどもがいるのでベビーカーの持ち込みができることキッズスペースが十分に確保されていること、落ち着ける空間、話しやすい医師と看護師さん、小さなこどもが人見知りをして泣くことのないような穏やかなお顔の医師(笑)、良い条件ばかりが揃っているので本当に嬉しく思います。これからもお世話になります。

    • 齋藤学 より:

      嬉しいコメントを頂きありがとうございます。確かに、アクセスの良さや、遊び場のスペースなど、とても大事ですね。もちろんスタッフの優しい顔も(笑)。我々も「もみの木クリニック」からいろいろと学ばせて頂こうと思っています。郡山地域の皆さまと手を取り合って、よりよい医療になることを願っています。これからもどうぞよろしくお願い致します。

  2. 渡辺加奈子 より:

    私は福島県でケアマネをしております。元ナースです。ビビッド悩み、考え、それ以上に楽しみながら仕事をしています。医療、介護、仕事、全て人です。
    私は福井謙医師のファンです。
    現実、現状と、人の心や本質を共有できるチーム作りを目指しています。
    いつか皆さんと繋がりたい…。

    • 齋藤 学 より:

      ご連絡ありがとうございます。もみの木クリニックで是非合同ミーティングでも開催したいですね。我々ももみの木クリニックのサポーターです!

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