『ウェビナー報告日誌 2020「GP Road Map」編 vol.3 ― ジェネラリストの高齢者ケア ―』

 

へき地で働くGPとしての豊富な経験を持ち、現在はメルボルンにて教育者として後進の指導に明け暮れるロナルド先生から、総合診療の真髄について学ぶ『GP Road Map』。

 

ロナルド先生は今回、「高齢者ケア」というテーマの下、オーストラリアのGPが高齢者ケアにおいて担う役割や求められる能力などについて、いつものように体系的に分かりやすくまとめられたスライド資料を活用しながら教えてくださいました。

 

 

 

 

そんな多くの学びがあった講義の内容について、今回も一部を抜粋してご紹介したいと思います。

 

 


 

 

老化の定義

 

 

「老化」とは、

 

 

  .年齢を重ねていくプロセスのこと

 

  2.遺伝的な特徴や環境、生活様式に影響を受ける生物学的なプロセスのこと

 

 

と定義することができる。

 

 

備考:

 

英語圏では、高齢者のことを「Old person(老人)」とは呼ばず、敬意を込めた丁寧な表現として「Older person(高齢者)」と呼び習わされている

 

 

 

 

 

オーストラリアにおける「高齢者ケア」の現状

 

 

オーストラリアの医療において「高齢者ケア(Aged Care)」はGPが担う領域であり、総合診療における「高齢者ケア(Aged Care)」とは、「高齢者の健康を管理し、ケアする」ことを指す。

 

オーストラリアの総合診療の現場においては、

 

 

 ・すべての患者の28%

 

 ・臨床時間の29%

 

 管理された問題の35%

 

 投薬の36%

 

 指示された検査の31%

 

 

を65歳以上の高齢者が占めている。また、近年においては、GPが診る高齢者の中でも特に75歳以上の患者が占める割合が増加傾向にある。

 

 

 

 

 

備考①:オーストラリアで典型的な高齢患者のプロフィール

 

 

 年に10回、GPを受診

 

 ・4つの慢性疾患を抱えている

 

 およそ5種類の薬を継続的に服用している

 

 ・98%の人がかかりつけのGPに通い続けている

 

 ・32%の人が慢性疼痛を抱えている

 

 ・13%の人が過去6ヶ月以内に薬の副作用を経験している

 

 

患者のすべての情報(病歴)を把握できるのは、「へき地医療におけるかかりつけGPならではの特権」だと言える。

 

 

 

 

 

備考②:オーストラリアにおける高齢者の主な死因

 

65~74歳 75~84歳 85~94歳 95歳~
1位 肺がん 冠状動脈性
心疾患
冠状動脈性
心疾患
冠状動脈性
心疾患
2位 冠状動脈性
心疾患
認知症・アルツハイマー病 認知症・アルツハイマー病 認知症・アルツハイマー病
3位 慢性閉塞性
肺疾患
(COPD)
 

脳血管疾患

 

脳血管疾患

 

脳血管疾患

4位  

脳血管疾患

 

肺がん

慢性閉塞性
肺疾患
(COPD)
心不全
および
合併症
5位  

大腸がん

慢性閉塞性
肺疾患
(COPD)
心不全
および
合併症
慢性閉塞性
肺疾患
(COPD)

 

※「認知症」や「アルツハイマー病」による死因の多くは、誤嚥性肺炎によるもの。

 

 

 

 

 

総合診療における課題

 

 

患者に発現し得る病状・病理については、高齢者と他の年齢層とで差はないが、患者の数(発症率)においてはより高い割合を占める。

 

また、特定の診断および管理に関する要素、あるいは患者の機能的および社会的な能力によっては、高齢患者とのコミュニケーションが難しくなってしまう場合もある。

 

 

 例:

 

  ・明確な病因が存在しない症状

 

  ・変化した臨床所見(通常とは異なる)

 

  ・既存の症状、特に知的障害や精神疾患、身体障碍を持つ患者に対する加齢の影響

 

  ・認知およびコミュニケーションにおける困難

 

  ・複数の症状の併発

 

  ・慢性疾患の管理を要する多臓器疾患

 

  ・多剤併用

 

  ・減衰した高齢者の生理的・心理的・経済的な余力

 

 

そのため、高齢者ケアにおいては、ジェネラリストとしての持てるスキルをすべて用いて対応することが求められる

 

 

 

 

 

ジェネラリストによる質の高い高齢者ケア

 

 

実現するために必要とされる条件:

 

 

 ・元気づけることに対する積極的な姿勢(高齢者の健康維持において重要な役割を果たす)

 

 ・関連する診断および管理におけるジレンマを含め、高齢患者が抱え得る無数の問題に優先順位をつけ、またそれに対処する能力

 

 ・高齢者とその家族、および介護者や友人との仕事に心地良さを感じること

 

 ・幅広い専門分野の医療チームと連携すること

 

 ・性差、民族性、貧困、性的嗜好を含む性的問題を含む多様な背景から高齢者が直面している特別な問題(差別を含む)を認識すること

 

 ・必要に応じたレスパイトケアの提供を含め、早期介入を可能にするために介護者のストレス評価を行うこと

 

 

 

 

 

高齢者ケアにおけるメンタルヘルス

 

 

65歳以上の高齢者において、うつ病や不安障害は非常に一般的なものであるが、症状がしばしば高齢化に伴う症状と類似しているため、その鑑別が困難なこともある。

 

説明のつかない身体症状や記憶障害、様々な行動の変容、奇妙な症状を伴うことがあり、認知症や精神病と誤診してしまうこともあるため要注意。

 

 

また、高齢者における「臨床的うつ病」は、「高齢化」の問題とは切り離して治療されるべきだと言える。

 

なお、「激越型うつ病」は、高齢者において最も頻繁に見られるうつ病のタイプであり、

 

 

 ・芝居がかったような振る舞い

 

 ・妄想や思考障害

 

 

を伴うことが特徴の一つ。

 

 

 

 

治療について

 

 

 心理社会的な問題、孤独感や孤立感など、気分を落ち込ませている要因と思われる要素に対処する必要がある

 

 高齢であることが、治療の有効性が損なわせることはなく、投薬にも反応を示す。ただし、用量は少量で良い場合が大半であり、高用量の投与に要注意。

 

 適切な治療および管理によって、症状の改善および回復は可能。

 

 どんなうつ病の治療においてもそうであるように、最も効果的な治療法は、その患者個人に特有の要素、原因およびストレスフルな生活上の出来事に対処・考慮すること。

 

 

 

 

 

「うつ病」と「認知症」の鑑別について

 

 

患者が「うつ病」なのか「認知症」なのかを鑑別するための手段として、簡易的なスクリーニング検査の実施はとても有用なため、いつでもすぐに実施できるよう準備を整えておくと良い。

 

なお、スクリーニング検査は数多く存在するが、中でも「ミニメンタルステート検査(MMSE)」、とりわけ「Folstein MMSE」は推奨される検査として広く用いられている

 

 

 

また、「MMSE」のスコアが「14」を超えた場合には、「高齢者うつ病スケール(Geriatric Depression Scale)」を併用することで、より効果的な鑑別診断を行うことが可能となる。

 

多言語対応しており、右記URL(www.stanford.edu/%7Eyesavage/GDS.html)からダウンロードが可能。日本語版の信頼性は高く、所要時間も5~10分程度と短い。

 

 

 

備考:

 

・「記憶障害」は「認知症」を示す唯一にして最良の兆候であるが、その評価(検査)に関しては、正式な記憶力テストをもって行われるべきである。

 

・「うつ病」と「認知症」を鑑別することは、高齢者ケアにおいて特に重要な診断的課題となり得るため、適切に両者を鑑別できる能力はジェネラリストにとっても重要なスキルだと言える。

 

・「うつ病」は治療可能な症状であるため、見逃さないことが重要。

 

 

 

 


 

 

今回の講義においては、要所要所で「日本ではどうですか?」と研修生たちに問いかけるロナルド先生の姿が印象的でしたが、研修生たちとのやり取りの中からは、オーストラリアと日本とでは共通する問題や課題も多いという現状が浮き彫りに。

 

オーストラリアと日本。何千キロメートルも離れた文化も人種もまったく異なる場所でも、同じような問題に悩まされているという事実に、「医療」や「人間」というものの本質的な普遍性を感じられるような講義となりました。

 

 

 

 

 

 

The other day, we humbly hold  the GP Road Map, one of our regular monthly webinars that focuses on the general practice in Australia by Dr. Ronald McCoy this month, too.

 

In the session, Dr. McCoy gave a lecture under the theme of “Aged care for Generalists” with well-structured and informative visual aids made by him. He told the registrars the important factors that GPs should be careful in order to provide quality aged care with their patients.

 

 

 

By the way, Dr. McCoy often asked registrars a question at pivotal points throughout the session: How about Japan?

 

Interestingly, the registrars endeavored to answer the questions making the fullest possible use of their English skills, and finally we found that both Australia and Japan had had a similar circumstance in aged care.

 

Actually, both countries had been facing with the same or similar problems, although there is over 6,000km “gap” and nothing is the same between Australia and Japan, including cultures, ethnicity and so on. The fact made us feel the essential universality of “Medicine” and “Human”.

 

 

 

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