『ウェビナー報告日誌 2020「GP Road Map」編 vol.4 ― プライマリーケア症例検討 ―』

 

総合診療医として長年にわたってオーストラリアの第一線で活躍されてきて、いまはその豊富な経験と知見を活かして後進の育成にも力を注がれているロナルド先生に、「総合診療」の何たるかを伝授していただく『GP Road Map』。

 

2020年の最後を飾る今回のテーマは、「ジェネラリストのためのプライマリーケア症例検討」。ロナルド先生が過去に経験した無数の症例の中から厳選された、いまの研修生たちに相応しい「課題」となるような症例が講義の材料として取り上げられました。

 

 

 

 

なお、今回はいつもと少し趣向を変えて、レクチャー形式ではなくディスカッション形式での講義となりましたが、以下は今回取り上げられた症例の一覧です。

 

 

 

  1.排尿困難

 

  2.肝機能検査以上

 

  3.子供の発熱

 

  4.倫理的な判断の求められる問題

 

 

 

どのテーマにおいても、研修生たちの積極的な参加により講義も充実したものとなったため、できればすべてをご報告したいところですが、記事のスペースにも限りがあるため、今回は上記の中から一つ抜粋してご紹介させていただきます。

 

 


 

 

 

症例:排尿困難

 

 

患者の情報:

 

 

  ・33歳 女性  保育士

 

  ・2日間にわたり排尿障害と頻尿の悪化傾向が継続中

 

  ・過去に重大な病歴はなし

 

  ・現在、服薬はなし

 

 

 

 

 

Q1.病歴について、確認すべき重要な特徴は?

 

 

研修生たちの意見:

 

 

  ・熱があるかどうかを確認する

 

  ・肋骨横隔膜角(costophrenic angle)に痛みがあるかどうかを確認する

 

  ・生理中かどうかを確認する(生理中は感染症を起こしやすい)

 

  ・STD(性感染症)による膀胱炎を疑い、膣周辺の痒みや痛みの有無を確認する

 

 

 

ロナルド先生の回答:

 

 

  ・尿路感染症の可能性がある他の症状について確認する

     ┗  例)血尿、骨盤やわき腹の痛み、発熱 など

 

  ・過去の尿路感染症歴についても確認する

 

  ・STD(性感染症)の兆候を探る 

     ┗  例)おりもの、性交疼痛の有無 など

 

  ・性遍歴の確認

     ┗  例)新しいパートナー、避妊しない性交渉、避妊、妊娠リスク、など

 

  ・アレルギーの有無を確認する

 

 

 

 

 

Q2.初期管理における適切な処置とは?

 

診察結果:

 

  ・  尿試験紙検査で血液、白血球、亜硝酸塩が検出された

 

  ・「単純性尿路感染症」と診断を下された

 

 

 

 

研修生たちの意見:

 

 

  ・水をたくさん飲むように指示する

 

  ・抗生剤(例:セファレキシン)を処方する

 

  ・「発熱したり何か悪い症状が出たら、また病院に来てください」と指導する

 

  ・排尿後の局部の適切な清掃方法について指導する

 

 

 

ロナルド先生の回答:

 

 

 

  ・原因と管理、予防策について教育する

 

  ・中間尿を用いた尿培養検査を行う

 

  ・尿のアルカリ化を図る

 

  ・水分補給を図る / 促す

 

  ・抗生物質を用いた経験的治療を実施する

 

  ・検査結果の通知を行い、セーフティネットを張る

 

 

 

 

備考:

 

  女性の中にも、尿路感染を予防するための正しい清掃方法を知らない人もいるため、正しい方法を伝えてあげると良い。正しい知識の教育が重要。

 

  尿のアルカリ化においては、抗生剤と重炭酸ナトリウムを主成分としたカシス味のソーダのような薬が広く用いられており、服用すると尿のphが下がり、膀胱が焼けつくような感覚から解放される。薬局などでも市販されている。

 

  「何かあれば、またすぐ受診してくださいね」と患者に促し、治療におけるセーフティネットを設置することも重要。

 

 

 

 

 

Tips and Traps(診察におけるコツと落とし穴)

 

 

  ・排尿障害を伴ったクラミジア尿道炎に気を付ける

 

  ・尿路感染の疑いがある患者の定期的な健康評価の一環として、腹部検査を実施する

 

  ・男性における尿路感染症の原因として前立腺炎の可能性を考慮する

 

  ・無菌性濃尿の場合には、他の原因を特定するための検査を行う必要がある

 

  ・適切な抗生物質を選択するためにガイドラインを使用する

 

  ・無症候性細菌尿には、抗生剤を使用しない(妊娠中か泌尿器科的治療中を除く)

 

  ・小児患者や高齢者を診察する際には要注意

 

  ・「尿路感染症予防にクランベリーが有効」というエビデンスは限定的

 

 

 

備考:

 

  ・小児患者や高齢者においては、非特異的な症状も多く見られることから、誤診してしまうこともしばしばある。原因不明熱の原因が、尿路感染症の場合もあるため、原因を探る際には可能性を疑うと良い。

 

  ・「尿路感染症予防にクランベリーが有効」という説はオーストラリアでは一般的によく知られている。

 

 

 

 


 

 

どのテーマもロナルド先生が厳選しただけあって、研修生たちにとっても学びの多いディスカッションとなったようでしたが、特に最後の「倫理的な判断の求められる問題」は、やはり研修生たちの中でも意見が分かれるところだったようです。

 

しかしながら、研修生たちが知識と経験を寄せ合って「正解」ににじり寄っていく様子は、「一人で何でも診られるようになる」ということは、決して「人に頼らず自分の力だけで解決しようとする」ことではないのだと、改めて実感させてくれるような光景でした。

 

 

 

 

 

 

One of our regular monthly webinar was conducted this month, too. Dr. Ronald McCoy gave a lecture to the registrars under the theme of “Primary Care Cases for Generalists”.

 

For your information, the gist of the lecture’s topics is as follows:

 

 

 

  1.Urinary difficulties

 

  2.Abnormal liver function tests

 

  3.Fever in children

 

  4.Ethical problem

 

 

 

While the lecture is usually conducted with the style of chalk talk, this time it was done, interestingly enough, with the style of discussion. Every registrars seriously deliver their opinions and exchanged it with Dr. McCoy proactively.

 

Thank to their active participation, the lecture seemed warmed up eventually and it also seemed that they were able to enjoy the session not only as a lecture, but also as a mental exercise.

 

 

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