『ウェビナー報告日誌 2020「Rural Skills」編 vol.4 ― 耳鼻科の手技 ―』

 

その道の専門医をお招きして、「総合診療医」として身に付けておきたい実践的な手技や知識について教えていただく『Rural Skills』。

 

今回は、東京都にある高野台いいづか耳鼻咽喉科の院長である飯塚 崇先生に講師をお願いし、「耳鼻科の手技」というテーマの下に、基本的なポイントや注意点から実際の診療で役立つコツや知識などまで、広く講義していただきました。

 

 

今回の講義においては、「鼻出血」・「耳垢除去」・「異物除去(外耳道異物・美内異物・咽喉頭異物)」・「扁桃周囲膿瘍」という、耳鼻科における症例の中でも遭遇率の高い四種類に焦点を当てた内容となりました。

 

そんな講義の概要について、今回も以下に共有させていただきます。

 

 


 

 

 

診療に役立つ「耳鼻科の器具」

 

 

 ・耳鏡(ルーツェ式)  税込価格 228円~

 

 ・鼻鏡(和辻式)  税込価格 880円

 

 ・ヘッドライト   「Can Do」にて税込価格 220円

 

 ・耳用異物除去鉗子   税込価格 3,960円

 

 

 ・上記すべてを揃えても、「税込6,000円」程度で済ませられる。

 

 

備考:

 

・耳鏡は「小」と「中」サイズ、鼻鏡は「小」サイズのものがあると良い。

 

・ヘッドライトは、手元を完全にフリーにすることができるため、あると便利。資金に余裕があるなら登山用の数千円するようなものが良いが、Can Doに売っているようなものでも十分に実用レベルにある。

 

 

 

 

鼻出血の止血処置に使う器具

 

 

1.鼻鏡

 

中指から小指までの三本と親指とで挟むように柄を持ち、人差し指は患者の顔に当てるようにするのが、鼻鏡の持ち方のコツ。

 

患者は結構顔を動かすので、グイっと奥にまで入ってしまって鼻を傷つけてしまうことを防ぐ。

 

 

 

2.ヘッドライト

 

鼻出血の処置時には必須。両手がフリーになるため、ヘッドライトは必須。あるいは、ライトの付いた耳鼻科ユニットがある場合は、それを利用するのも良い。

 

 

 

3.可吸収止血剤、軟膏付きガーゼ

 

サージセル、スポンゼル、ゼルフォームなどがある。

 

 

 

4.焼灼器具(バイポーラ)

 

出血点がしっかりと判明すれば、バイポーラで焼灼すると抗凝固剤を飲んでいる患者さんでも結構しっかりと止まる。

 

 

 

 

前方からの出血時の処置

 

 

1.用手的圧迫止血

 

前方からの出血の場合は、まずは医者が駆けつけるまでは患者自身に鼻を圧迫していてもらう。鼻の付け根(小鼻)の方を抑えている患者は多いが、キーゼルバッハ部位からの出血には無意味。鼻の真ん中(鼻中隔)あたりを抑えてもらうように指示する。

 

また、鼻中隔だったとしても、先端の方を抑えても意味がないため、なるべく奥をつまむように、なるべく鼻中隔を広く抑えると、キーゼルバッハ部位の出血の場合は、だいたい止まる。ただし、抗凝固剤を服用している場合は、止まらない場合もある。

 

 

 

2.ボスミン綿球による止血

 

ボスミンがない場合には、生理食塩水でも代用できる。

 

 

 

3.ガーゼタンポンによる止血

 

キーゼルバッハ部位の場合は前方に入れるだけでいいのでそう難しくはないが、奥に入れるのは基本的に難しいため、あまり無理をして実施する必要はないと思われる。

 

 

 

4.焼灼止血

 

焼灼する場合は麻酔しないと痛いため、ガーゼにキシロカインを付けて15分くらい当てておく、あまり痛みを感じさせずに焼ける。

 

また、鼻の孔の周囲を焼いてしまわないようにも注意。バイポーラの種類によっては、先端部が覆われていないものがあるため、そのタイプのものを使うときは、特に患者を火傷させてしまわないように要注意。

 

 

 

5.バルーンによる止血

 

口から見た時にバルーンが見えるくらいまで奥に突っ込み、口の中でバルーンを膨らませてから引っ張るとちょうど鼻中隔の一番後ろでバルーンが止まり、止血ができる。

 

 

 

 

止血点の見つけ方

 

 

鼻血の9割はキーゼルバッハ部位に見つかるため、まずはキーゼルバッハ部位をしっかりと確認する。

 

また、キーゼルバッハ部位でない場合の出血点も大体決まっており、鼻内の上の方からか後方の蝶口蓋動脈から出ている場合が多い。

 

 

 

なお、蝶口蓋動脈の場合は、ガーゼを入れても後方まで入れても圧迫できないため、とても止血しづらい。バルーンを入れると上手く圧迫できる場合もあるため、尿道バルーンを5cc位生食で膨らませてバルーンを入れてみるのもよい。

 

後方の出血点を探す場合には、軟性の内視鏡を用いる。出血点が分からない場合は、止血はかなり難しくなってしまう。

 

 

 

 

鼻内後方を焼灼する場合の処置

 

 

硬性の内視鏡を入れた状態で、焼灼する。

 

軟性の内視鏡では両手が塞がってしまうため、片手で操作できる硬性の内視鏡を用いる。軟性の内視鏡は、止血点の見つけ方を同定するために使うと良い。

 

 

 

 

鼻出血時における内視鏡の視野確保のコツ

 

 

あまりに出血が酷い状態だと視野の確保ができないため、まずはボスミンとキシロカインを付けたガーゼを鼻の中に入れてある程度止血する。

 

また、基本的にはコアグラをすべて除去し、鼻の中をなるべく綺麗にしてから処置を行う。

 

 

そのほか、実感として患者の血圧が高いと出血の勢いも強まる傾向があるため、血圧を下げられる状況にあるならば、血圧は下げてから処置した方が良い。

 

 

 

 

耳垢除去に役立つ器具

 

 

1.耳鏡 

 

耳内に生える毛のせいで普通に見ても視野を確保できないため、耳鏡を使う。

 

おすすめは、「VITCOCO Portable Ear Spoon」。 Amazonで約3,500円で入手が可能。

中耳炎など、耳を診るくらいには十分使える。搭載カメラでの撮影機能もあるほか、各種耳掃除用のアタッチメントも付属。

 

耳垢の除去には慣れ(コツ)が必要だが、鼓膜の状態を確認したりするには十分使える。

 

 

 

2.耳垢鉗子 / 耳垢処置用麦粒鉗子

 

耳鼻科医ならともかく、ここまでは持っていなくても良い。上述した「耳用異物除去鉗子」があれば十分代用できる。

 

 

 

3.耳洗銃

 

硬い耳垢などは、水を使ってふやかすことで取りやすくなるため、あると便利。水と一緒に耳垢が流れることもあるため、便利。結構使える。

 

 

 

 

耳鏡の持ち方のコツ

 

 

耳の中は結構曲がっているため、耳の中をなるべく真っ直ぐにしてから耳鏡を入れると見やすくなる。

 

また、耳介の後上部を上に持ち上げるようにすると外耳道が真っ直ぐになりやすくなるため、鼓膜が見やすくなる。

 

 

実際に耳鏡を使う際には、中指と薬指で耳介を挟んで上に持ち上げつつ、親指と人差し指で耳鏡を持って見るようにすると良い。

 

 

 

なお、外耳道は真ん中より奥に触れただけで痛みを感じるので、あまり奥にまで突っ込まないよう注意。耳の毛を超えたあたりで挿入を止めれば、患者が痛がることはないはず。

 

 

 

 

耳垢水・点耳薬・耳洗銃について(乾性耳垢)

 

 

耳垢水や点耳薬を使ってふやかすことでも取りやすくなるほか、ふやかした上で、吸引管で吸ってあげると取れることもある。

 

なお、耳垢が柔らかい場合には、大き目の吸引管を使うと取りやすくなる。

 

 

また、耳洗銃などを使って耳内に水を入れる場合は、「カロリックテスト」になってしまわいように、かならず体温程度(37℃)に暖めた水を使うこと。

 

特に冬場などで冷たい水を患者の耳に入れてしまうと、めまいを起こさせてしまうため要注意。

 

 

 

 

鼓膜穿孔があった場合に、保存的に気を付けるべきこと

 

 

鼓膜穿孔の原因により異なるが、感染にだけは注意した方が良い。

 

外耳道には細菌が存在しているため、水を入れると耳の奥に細菌が流れてしまい中耳炎を起こして耳垂れが出てしまう。耳垂れが出ると鼓膜穿孔が塞がりづらくなるため、耳に水を入れないようにだけは注意した方がよい。

 

 

通常、半年間までは鼓膜が自然に塞がる可能性があるため、それまでは自然経過で観察してもよい。

 

ただし、途中で耳垂れが出た場合には、病院になるべく早くかかるように指導する。

 

 

 

 

外耳道の真菌感染に対する処置について

 

 

外耳道の真菌処置は難しく、まずは真菌塊を取り除かないことには、なかなか真菌を上手く駆除することはできない。

 

そのため、まずは洗ったり吸引したりして真菌塊を取り除き、それからクリーム系の抗真菌剤を多量に入れると良い。以降は、症状が快癒するまでその工程を繰り返す。

 

 

 

なお、軟膏(クリーム)を耳に入れる際には、綿棒でそっと入れると良い。あるいは、シリンジでも代用できる場合もある。

 

また、患者自身で入れるのは難しいので、可能であれば週二回、最低でも週一回は病院に通って貰うよう指導するのが妥当と思われる。

 

 

 

 

異物除去に用いる器具

 

 

1.鑷子

 

 

2.耳用小鈎

 

 

3.喉頭鉗子

 

 

4.生検用内視鏡

 

 

 

 

外耳道異物の除去について

 

 

1.耳垢鉗子や吸引による除去

 

とにかく、除去しようとしてかえって奥に入れてしまわないように注意。

 

奥に入れてしまうと耳鼻科医でも取るのが難しくなり、場合によっては全身麻酔で施術しなくてはならなくなってしまうこともあるため、要注意。異物をつまめそうならつまみ、無理そうなら別の手を考える。

 

なお、瞬間接着剤をつまようじの尖っていない方の先端につけて、異物にくっつけて除去する方法もあるが、接着剤を耳内にくっ付けてしまわないよう要注意。

 

 

 

2.洗浄による除去

 

耳垢の除去と同じ要領で、体温程度に温めた水で洗浄することでも異物を除去できる場合もある。

 

 

 

3.耳用小鈎による除去

 

耳用小鈎だと耳の中にひっかけて傷つけてしまう恐れがあるため、クリップを利用した方法がより安全に代用できておすすめ。

 

 

異物と耳との隙間から入れてひっかけて取るが、この時も異物を奥に押し込んでしまないように注意する。

 

なお、このクリップによる除去方法は、前方部の鼻内異物を除去する際にも利用できる場合があるため、覚えておくと便利。

 

 

 

4.生き物を除去する場合

 

鼓膜に穴が空いていなければ、キシロカインで動けなくしてから取る方法が一般的。

ただし、鼓膜に穴が空いている場合はめまいを誘発させてしまうため、オリーブオイルなどのオイルを用いて殺してから取る方法がある。

 

なお、異物(生き物)を取る際には、なるべく生き物の体をちぎってしまわないよう注意した方が良いが、たいていの場合はちぎれてしまう。

 

 

 

 

 

咽喉頭異物(魚の骨や義歯、PTP)の除去について<br />

 

 

咽喉頭異物の中でも、魚骨は一番厄介であり、口蓋扁桃に刺さっている場合が多い。

 

取らないままにしておくと奥に奥にと深く刺さってしまい、最悪の場合には頚部を外部から切開して取らなくてはならなくなってしまう場合もあるため、魚骨は取れるなら取ってしまった方が良い。

 

 

魚骨を確認できず、上手く除去できなかった場合でも、一日も経つと「痛みや違和感が減った」と患者が実感した場合には、刺さっていた骨が抜けている可能性が高い。

 

 

 

 

扁桃周囲膿瘍の処置に使う器具<br />

 

 

1.シリンジと針

 

 

2.扁桃周囲膿瘍切開刀

 

 

3.尖刃のメス

 

 

4.ペアン

 

 

 

備考:

 

針は、23Gがあると便利。また、開口障害があることが多いので、シリンジは小さめのものの方がよい。

 

 

 

 

扁桃周囲膿瘍の鑑別のコツ

 

 

左右差を見て判別する方法が一般的。

 

 

口蓋垂を中心に左右差を見て、明らかに腫れている方があれば、膿がたまっている可能性が高い。また、腫れている方は明らかに赤い上に盛り上がっているため、そういう場合は、扁桃周囲膿瘍を疑った方がよい。

 

なお、中には左右両方が腫れあがっている人もいるが、そのようなケースはごく稀。

 

 

 

そのほか、声がこもった感じになるのも特徴の一つ。声を聴いた瞬間に、「この人、喉が腫れているな」と分かるような場合には、扁桃周囲膿瘍や急性喉頭蓋炎を疑う。

 

また、明らかに大きく腫れあがっている場合は、膿瘍形成している場合が多いと言えるが、しっかりと鑑別したい場合には、造影CTを取ると膿瘍形成しているかどうかが判別できる。

 

 

 

 

扁桃周囲膿瘍の切開のコツ

 

 

最も腫れているところに空シリンジに細めの針を付けて刺して、陰圧を掛けて膿が吸引できるかどうかを確認する。

 

そこで膿が引ければ、その場所を切開すれば良いためあまり難しいことはないと言えるが、二回刺しても膿が引けない場合には、抗生剤を投与して一日様子を見る。

 

 

なお、切開して排膿があった場合は、ペアンで創部を広げてあげると、膿を大量に排出させることが可能。

 

 

 

 

扁桃周囲膿瘍時の穿刺について

 

 

基本的には座位で処置を行うが、患者の頭が動くと危ないので、できるだけしっかりと固定した方がよい。

 

また、穿刺は局所麻酔なしで、切開する際には局所麻酔を行うが、麻酔はあまり効かない場合が多い。創部から出た血は飲み込ませず、患者に吐き出してもらうよう指導する。

 

 

なお、常勤の耳鼻科医がいない場合、太めの針を刺して膿が大量に引けるようであれば、膿を引けるだけ引いて、無理に切開しなくても良い。

 

 

 

そのほか、扁桃周囲膿瘍の場合は、開口障害を伴っている場合が多いが、その場合には、患者に頑張って口を開けて貰うしかない。

 

開口器などを使って補助しつつ口を開けるだけ開いてもらった上で、その隙間から施術する。

 

 

 

 

扁桃周囲膿瘍を切開した後の管理について

 

 

切開した後の傷はすぐに塞がるため、基本的に食事制限は必要ない。

 

血も一時はよく出るが、10分ほどで止まってしまう場合が大半で、血が止まってしまえば傷が再び開くようなこともないため、何か物を食べても大丈夫になる。

 

 

また、基本的に普通の扁桃周囲膿瘍であれば、穿刺や切開後に入院させる必要はないが、喉の奥の方が腫れていて気道が怪しい場合には、入院させた方が良いと思われる。

 

 

 

 


 

「イカの精子(精莢)が喉に刺さってしまった場合には、どうやって処置するのが良いでしょうか」

 

経験豊富な飯塚先生も思わず頭を捻ってしまうような、離島で働く医師ならではの “珍症例” に関する質問も研修生から飛び出した今回の講義でしたが、研修生たちからは終始活発に質問が飛び交い、とても充実した時間となったようでした。

 

 

 

 

 

 

 

The Rural Skills is one of the regular monthly webinar for the RGPJ registrars focusing on improving any practical skills and developing the related knowledge that is required in the GPs in rural and remote areas.

 

This time, We invite Dr. Takashi Iizuka, who is the director of Takanodai Iizuka Jibiinkoka Clinic as a lecturer and he unstintingly shared his knowledge and experiences with the registrars.

 

 

For your information, the main topics of the lecture was as follows:

 

 

 

  1.Epistaxis (Nosebleed)

 

 

  2.Cerumen removal

 

 

  3.Foreign Body Removal (ear canal / nose / laryngopharynx)

 

 

  4.Peritonsillar abscess

 

 

 

Throughout the session, every registrars actively asked questions to Dr. Iizuka in order to solve the problem they had recently faced with or answer their questions they had been having in their daily practice.

 

 

Interestingly enough, one of the registrars asked to the Dr. Iizuka: how should I give treatments to the patients who the sperm of squid has gotten stuck in their throat?

 

Actually, it was the very unique question of the doctor who had been working in the small remote island and Dr. Iizuka seemed overwhelmed a little with the question.

 

 

 

Anyway, finally everyone were able to answer their questions thanks to Dr. Iizuka’s devoted cooperation, so the webinar result in a great success this time again.

 

 

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