『ウェビナー報告日誌 2020「Rural Skills」編 vol.5 ― 救急のマル秘小ワザ!? ―』

 

毎回一つのテーマに絞り、それぞれのテーマに沿った専門家の方を講師に招いて実践的な知識と技術の伝授をしていただく『Rural Skills』。

 

今回は、ゲネプロの研修先病院の一つでもある、高知県の大井田病院から田中 公章院長に講師役をお願いし、『救急のマル秘小ワザ!?』という面白いテーマの下、主に救急処置時にトラブルに繋がりやすい手技や症例に焦点を当てた講義を展開していただきました。

 

 

 

 

なお、田中院長の紹介する内容は、どれも医学的なエビデンスに基づいていることはもちろん、院長自身が長年の医師人生を通じて得た経験則に基づいた実践的・実際的なものばかりで、研修生たちにとっても、痒い所に手が届くような講義となったようでした。

 

そんな講義の概要について、今回も以下に共有させていただきます。

 

 

 


 

 

 

 

救急時における「戦略」と「戦術」

 

 

 

  戦略:治療方針、ロードマップ、戦略の失敗は戦術では補えない

 

 

  戦術:小手先、最低限習得しなければならない手技

 

 

 

 

 

備考:

 

・救急や外傷の場合は、大きな治療方針を示したロードマップ(戦略)が必要であり、非常に重要となる。

・戦術ばかりに走っていてはいけない。ただし、「戦術」は最低限習得しなければならない手技でもある。

 

 

 

 

 

 

 

ルート確保のコツ(ワンハンド)

 

 

 

  ・(重力で静脈内に血液がたまるように)腕を心臓よりも下げる

 

  ・(右利きの場合)左手母指で太鼓に張った革のように皮膚を牽引する。

   その際、外筒を進める邪魔になるので、穿刺上に母指を置かない

 

  ・逆血がみられたら、全体を1~2mm進め、先端を血管内に挿れる

 

  ・皮膚の緊張を緩めず、穿刺した右手示指で外筒をすべて静脈内に

   左手を離さないでカテーテルを滑らせる

 

  ・2~3回、拳をつくってもらう

 

  息止めをしてもらう

 

  ・酒精綿などで、抹消から中枢方向へしごく

 

  ・静脈を愛護的に叩いて怒張させる

 

  ・蒸しタオル、カイロで温める

 

  ・2%ニトログリセリン軟膏を肌に塗り、静脈を拡張

 

 

 

 

 

備考:

 

・利き手じゃない方で行う皮膚の牽引(テンション)は、絶対に離してはいけない

 

・ライン確保が困難な場合、超音波ガイドを利用するのも手

 

・静脈を愛護的に叩くと怒張するが、穿刺よりも痛い可能性がある

 

・静脈ラインをたくさん確保しすぎて後悔することはない

 

 

 

 

 

 

 

穿刺(緊急避難的)のポイント

 

 

 

  ・10ml注射器を用いる(生理食塩水を少し入れておくと気泡が見やすい)

 

  ・左側に立ち、サーフロー針14Gを使用して行う

 

  母指と中指で甲状軟骨を固定する

 

  ・皮膚をメスで小さく切開し、45度の角度で挿入

 

  酸素 10~15L  /  分

   送気1秒

   開放4秒(完全閉塞)

   開放1秒(不完全閉塞)

 

  ・2.5ml注射器の外套に7.0mm気管チューブのジョイントを接続し、BVM換気

 

 

 

 

 

備考:

 

・必ず気管は持ったままにしておくこと

 

・刺す場所は、輪状甲状膜の真ん中

 

・輪状甲状靱帯穿刺キットを用いると、気管切開術よりも低侵襲かつ迅速な挿管が期待できる

 

・腫脹で輪状甲状靭帯に触れられない場合:輪状甲状間膜は咽頭隆起から「2~3cm下方」または「胸骨切痕から4横指上方」に位置

 

 

 

 

 

 

 

致死的気管支喘息 ⇒ 気管喘息への対処

 

 

 

状況設定:

 

酸素、β刺激薬の頻回吸入、エピネフリン皮下注投与なども改善なくSpO2 85%を下回り、意識朦朧としているような場合

 

 

  鎮静:ケタミン 1~2mg/kg(気管拡張作用)

  

  鎮痛:フェンタニル 1~2mcg/kg(血圧に対する影響少ない)

 

 

 

気管挿入後、BVM換気も硬い場合:

 

 

気道内圧高ければ:気管内にエピネフリン投与(1~2mg + 生食4ml)

 

         気管支鏡で喀痰吸引

 

          胸部XP

 

 

 

 

 

備考:

 

・ケタラール(ケタミン)は、自発呼吸を止めにくい

 

・エビデンスはなく症例報告ではあるが、エピネフリンを少し混ぜるのも手。エピネフリンは10分の1くらいしか吸収されないので、そこまで効果は期待できないかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

胸腔ドレーン挿入(施設内)

 

 

 1.仰臥位、上肢を拳上する

 

 2.挿入部を消毒し、滅菌ドレープをかける

 

 3.局所麻酔を行う

 

 4.胸腔ドレーン(トロッカーカテーテル)を挿入する

 

 5.ドレーンと低圧持続吸引器を滅菌操作で接続する

   ⇒(ウォーターシール部はあらかじめ滅菌蒸留水で満たしておく)

 

 6.排液の有無とエアリークの有無を確認後、縫合する

 

 7.挿入部にドレッシングを行い、固定用テープを固定する

 

 8.ドレーンの先端をX線画像で確認する

 

 9.バイタルサインとともに:

 

   ・排液量や性状(血性、淡血性、漿液性、膿性、乳糜など)

   ・皮下気腫やエアリークの有無

   ・呼吸音の左右差

   ・疼痛

 

   などを観察する(記録項目)

 

 

 

 

 

 

 

呼吸性変動とエアリークについて

 

 

 

1.呼吸性移動 (+) / エアリーク(-) ⇒(望ましい状態)

 

チューブがきちんと効いていて、エアリークがない=穴が塞がっている状態。

この状態で、胸部レントゲン写真上で肺の再膨張があれば、クランプテストへ。

 

 

2.呼吸性移動(+) / エアリーク(+)⇒(まだ塞がっていない)

 

エアリークがなくなるまで、もう少し待つ。

 

 

 

3.呼吸性移動 (-) / エアリーク(-)⇒(どこかで閉塞を起こしている)

 

どこかで折れ曲がっていないか、目に見えるところで詰まっていないか、確認する必要あり。医師に報告を。

 

 

 

4.呼吸性移動(-) / エアリーク(+)(あり得ない状態)

 

チューブのどこかが外れているとこの状態になる。ただちに医師に報告し、指示を仰ぐこと。

 

 

 

 

 

 

胸腔ドレーンを抜く時の作法

 

 

 

パターン① 最大「呼気」

 

気胸の発生が少ないという報告( Cerfolio RJ.et al: J Thorac Cardiovasc.2013

こだわるなら、こちらの方式を選択すると良いかもしれない。胸腔内が陽圧であれ、空気の流入を抑制できる点で優れている。

 

 

 

パターン②最大「吸気」

 

一方で、最大「吸気」時が良いという考えもある。胸腔内が十分拡張していれば、その後は胸腔内が陽圧に転じる点、息止めを続けやすい点で優れる。

ただし、直後に息を吐くことになるため肺が虚脱し、胸腔内が陰圧になり外気を吸い込みやすくなる。

 

 

 

田中院長としての結論:

 

 

・少し息を吐いてもらい(ポイント)息止めしてもらう

 ⇒ 息止めの余力があるため、特に高齢者などに実施してもらいやすい。

 

・皮膚切開部でなく、ドレーン挿入部と思われる部を圧迫

 ⇒ 逆行感染を減らすため

 

・テガダーム、オプサイトなどを貼付

 

 

 

 

 

備考:

 

パターン①と②との間で「違いはない」と結論付ける論文も存在している。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

ちなみに、現在も大井田病院で研修中の第4期生の一人である松原先生が、ウェビナーの最初に「医者としてあらゆる領域で上回られてしまい、いい意味で鼻をへし折ってくれる方」と田中院長を紹介する一幕も。

 

実際、田中院長の豊富な経験に基づく知見やアドバイスを目の当たりにし、研修生たちもいい意味で圧倒されてしまっていたようでしたが、その分だけ刺激的で実りの多い講義となっていたようでした。

 

 

 

 

 

 

 

The Rural Skills, a regular monthly webinar for the registrars’ enhancement of general skills and knowledge required as rural generalists in rural and remote areas, was held last week.

 

This time, we invite Dr. Kimiaki Tanaka, who is the director of Oida Hospital as a lecturer. The hospital had been one of our partnering hospitals and Dr. Tanaka also had been a good coach for the successive RGPJ registrars.

 

 

For your information, the main topics of the lecture was as follows:

 

 

 

  1.Establishment of intravenous lines

 

 

  2.Intubation of windpipe and stomach tube

 

 

  3.Thoracentesis

 

 

  4.Animal bite

 

 

  5.Foreign body removal

 

 

 

Interestingly enough, Dr. Matsubara, who had been in the training at the hospital and directly getting coaching from Dr. Tanaka, introduced the coach as “the person who puts any registrars in their proper place” to other registrars at the very beginning of the session.

 

Actually, he meant that; Dr. Tanaka has really considerable experiences and accumulated knowledge and skills, so any registrars or young doctors would be overwhelmed and their feathers could often be cropped by him in a good sense.

 

 

In fact, it seemed that every registrars understood what Dr. Matsubara meant as soon as the lecture began and was strongly impressed at a lot of practical tips on emergency first aids with which Dr. Tanaka munificently provided them.

 

 

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