『ウェビナー報告日誌 2020「Registrar’s Lecture」編 vol.4 ― 右下腹部付近に膿瘍を形成する疾患 ―』

研修生ならではの観点や視点から、仲間の研修生たちと共有しておきたい知識や経験をプレゼンテーション方式で発表してもらう「Registrar’s Lecture」。

 

2020年最後を締め括ることとなる今回は、国保匝瑳市民病院にて研修の日々を送られている赤嶺 健吏先生が壇上に立ち、「右下腹部付近に膿瘍を形成する疾患」というテーマで発表を行われました。

 

 

 

 

なお、今回のウェビナーにおいては、「右下腹部付近に膿瘍を形成する疾患」として幾つか代表的な病名が挙げられ、その後それぞれの病状や症状別の特徴や治療方法などについて紹介されることとなりました。

 

やはり、すべてを文字に起こしてお伝えするのはどうにも難しいため、今回の講義における「メイントピック」の一つとなった「穿孔性虫垂炎」について、以下にご紹介したいと思います。

 

 


 

 

 

右下腹部付近に膿瘍を形成する疾患

 

【主な鑑別】

 

  穿孔性虫垂炎、虫垂憩室穿孔

 

  ・上行結腸~盲腸憩室穿孔

 

  ・大腸癌(盲腸癌、虫垂癌・粘液腫など)穿孔

 

  ・卵管膿瘍・卵巣腫瘍・PID

 

 

 

備考:

 

治療方針は、臨床診断の結果に沿って決定されるが、高齢者は造影できない場合も多く、画像診断の精度には課題あり。

 

ただ実際には、生検などの病理検体なしには、悪性疾患を含めた他疾患を、確実に否定することは困難であり、確定診断は術後にしか得られない(場合も多い)。

 

画像診断や臨床診断、確定診断(病理診断)の結果が、常に必ずしも正しい訳ではないことを、あらかじめ患者さんまたは家族に対して、必ず「初回治療」の前にそのことを説明しておくべき)

 

 

 

 

穿孔性虫垂炎(膿瘍形成)の診断

 

画像診断:

CT検査、超音波検査などで虫垂周囲の炎症所見と膿瘍形成を鑑別する

 

 

臨床診断:

虫垂周囲に腹痛があり、血液検査で炎症反応の上昇があり、画像で上記所見がある。

 

 

 

備考:

 

臨床では、身体所見、血液検査所見、画像所見は、すべてが揃わない場合も多い。

 

 

 

 

 

虫垂炎による穿孔の特徴:

 

 

 

1.穿孔部にかかる圧

 

大腸憩室・大腸癌穿孔などと比較し、穿孔部の腸管径(他の大腸と比較して虫垂自体径が小さい)や、解剖学的な位置(便が通過する場所の主体ではない)だけを考えても、穿孔部に圧がかかりにくいと想定される。

 

 

2.穿孔部から漏れる便量

 

穿孔した孔の大きさ、穿孔部自体から排泄される便量は多くない。

 

 

3.穿孔部から漏れた便の性状

 

右大腸は、便中の細菌が、左台長と比較し汚染が軽い。

→ 穿孔していても緊急手術という症例は、減っている。

 

 

 

 

 

穿孔性虫垂炎の治療について その①

 

1.緊急手術の場合

 

症状・兆候:「汎発性腹膜炎」を伴う場合が多い

「糞石」があり、再燃性が高い

 

リスク: 緊急手術は、予定手術と比べて死亡率・合併症の発生率ともに高い

 

利点: 再燃がない

 

 

2.保存的加療(≒抗菌薬治療(+膿瘍穿刺ドレナージ)の場合

 

症状・兆候: 炎症が限局化している

緊急手術自体のリスクが高い患者

 

リスク: 改善しない場合、手術が必要になる

 

利点: 炎症を抑えた(=切除範囲を小さくした)後、より計画的に待機的手術を選択できる

 

 

 

 

備考:

 

保存的加療におけるドレナージチューブ留置例では、管理のために抑制・長期入院療養から認知症が進行し、ADLが低下する場合も。

 

 

 

穿孔性虫垂炎の治療について その②

 

保存的加療の実際

 

  ⇒ 絶食と抗菌薬投与のみでも、虫垂穿孔部は塞がることが多い。

 

 

備考:

 

抗菌薬投与期間は、腹腔内膿瘍の推奨期間(=3~4週間)と同程度と考えられる。

 

ただし、膿瘍の大きさ・炎症反応について、血液検査・画像フォローにて治療効果を判定し、早めに終了したり内服へと切り替えたりすることは可能。ドレナージすることができた場合には、さらに治療期間を短縮することもできる。

 

 

 

 

 

穿孔性虫垂炎の治療について その③

 

 

待機的虫垂切除術

待機手術のタイミング:interval appendectomy(IA)は、保存加療後2ヶ月が推奨。

 

 

 

再燃時に緊急手術

初回入院時に心配機能の精査をしておき、直近で再燃した場合の緊急手術に備える。

 

 

 

備考:

 

待機期間が短い場合には炎症の改善が十分に得られない一方で、長い場合には炎症の再燃が問題になってくる。5~44%が待機中に増悪する。手術操作性、安全性、再燃リスクを考え、保存加療後2ヶ月程度で手術を行うのが妥当である。

出典:『消化器外科専門医の心得』 日本消化器外科学会, 消化器外科専門医テキスト政策委員会監修. 2020.2 . p828.

 

 

 

 

腹膜炎について

 

Q.若い女性の場合、腹膜炎が不妊の原因になることもあるが、消化器外科的にはどのように対応するのが一般的ですか?

 

 

A.

 

「若い女性」と「それ以外の患者」とで、特別に処置や対応が変わることは基本的にありません。

 

そもそも若い方は男女を問わず痛みを感じやすいため、痛みや違和感を覚えた時点で割とすぐに病院にかかるため、女性の場合でも、卵巣を巻き込むような重篤な症状になってから診察にかかる人は滅多にいないです。

 

 

 

 


 

 

なお今回、ウェビナーの後半では、赤嶺先生がこれまでに実践し、その効果を実感してきた「おすすめの英語の勉強法」に話題が移りましたが、皆一様に赤嶺先生の話に熱心に耳を傾けている姿からは、やはり他の先生方も英語の習得には日々真剣に取り組まれているだろうことが窺えました。

 

赤嶺先生からはYouTube上で視聴可能な「自主勉強に役立つおすすめの動画」や、「勉強の効率化を促してくれるおすすめアプリ」などの情報も共有されるなど、大いに盛り上がった回でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

The Registrar’s Lecture, a webinar aimed at improving the registrars’ skills and knowledge that is required for a doctor who works in rural and remote areas through sharing their experience and the results of their study with other registrars.

 

This time, Dr. Akamine talked about the “disorders that develop abscesses around right lower quadrant” and the disorders that he gave as some specific examples were as follows:

 

 

 

  1.perforated appendicitis, perforation of appendix diverticulum

 

  2.perforation of ascending colon or cecal diverticulum

 

  3.perforation of bowel cancer (cecal cancer, appendix cancer, myxoma, etc…)

 

  4.abcess of fallopian tube and/or ovary, PID

 

 

 

In the presentation, he provided the knowledge about diagnostics and typical treatments of those disorders, especially focusing on “perforated appendicitis”, because it is one of the most common disorders that create an abscess, according to him.

 

 

After the instruction, the training session for enhancing the skills of differential diagnosis of the disorders using some X-ray radiographs was conducted and the tips on how to distinguish clinically.

 

 

 

At the end of the webinar, Dr. Akamine introduced his favorite methods and the tools of studying English to others. Since it seemed that many of the registrars, including Dr. Akamine, didn’t have confidence in their English ability to a greater or lesser, all of them listened deeply to Dr. Akamine and proactively shared their own methods with each other.

 

 

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