『ウェビナー報告日誌 2020「Registrar’s Lecture」編 vol.3 ― ケロイド・褥瘡・陥入爪 ―』

 

実際に研修を受ける立場の目線から見た有用な情報や貴重な経験の共有を図るための、研修生の研修生による研修生のためのウェビナー「Registrar’s Lecture」。

 

今回は、大井田病院で研修中の西津先生が発表者となり、「皮膚切開とケロイド」、「褥瘡・創傷治癒」、「陥入爪」をテーマに、その処置のコツやポイントについて実体験を交えつつ発表してくださいました。

 

 

 

 

また、発表の後半には、「モチベーションの保ち方」という面白いテーマに話は移り、それぞれの先生がどのようにして自分を鼓舞しながら激務と研修の日々を潜り抜けているかについて、活発にアイデアや方法論の共有が行われていました。

 

そんな発表の様子について、今回も内容を抜粋して紹介いたしたいと思います。

 

 


 

 

皮膚切開の指標について

 

RSTLRelaxed Skin Tension Line)

 

 ⇒ 皮膚を摘まんだ時、平行なしわのできる方向が「RSTL」

 

 

 

胸骨部、および背中の腰から上については「縦」方向に切開を置いた方が傷跡が残りにくい、と言われている。

 

 

また、顔に関しては「しわの入っている方向に切る」というのを基本に心掛けると良い。なお、鼻根部については「横切開」とされているが、「縦切開でも良い」とする意見もあり、形成外科の中でも意見が割れるところとなっている。

 

 

 

そのほか、手の裏や足の裏については、直線的に皮膚切開を置くのではなく、ギザギザ(ジグザグ)に切って開ける。真っすぐ切ってしまうと瘢痕の拘縮が起こり動かなくなってしまうことがあるため、ちょっと大げさでもギザギザに切った方が良い。

 

 

 

 

 

備考:

 

皮膚割線としては、1861年にオーストリアのLangerが報告し、後にKocherが「皮膚切開線の指標」として推奨した割線(Langer割線)が有名。

 

ただし、元々が皮膚切開線の指標として発表されたものではないため指標として適切でないことが判明し、現在では使われていない。

 

 

現在は、Langerの皮膚割線に従って切開するとケロイドなどが残りやすくなってしまうことなどから、1962年にBorgesの提唱した「RSTL(Relaxd Skin Tension Line)」を基準に皮膚切開を行うよう推奨されている。

 

 

 

 

 

瘢痕とケロイドについて

 

 

「肥厚性瘢痕」と「ケロイド」は同じスペクトラム上に存在している疾患であり、炎症の強いものをケロイド、傷がはみ出していないものを肥厚性瘢痕と呼んでいる。

 

また、肥厚性瘢痕が改善し目立たなくなった状態のものを「成熟瘢痕」と呼び、それが拘縮を起こしてしまうと「瘢痕拘縮」という分類になる。

 

 

 

瘢痕・ケロイドの特徴

 

 

 ・真皮網状層に起こる炎症

 

 ・「皮膚の引っ張られる部位」で炎症を繰り返して肥厚する

  耳、下顎、前胸部、肩甲部、下腹部(恥骨部、臍周囲)、肘・膝・手・脚関節部など

 

 ・妊娠で増悪することが知られている

 

 ・高血圧患者、過度の飲酒、激しい運動によっても増悪し得る

 

 ・サイトカインストーム(全身の炎症状態)にある患者にも強く出やすい

 

 ・「ケロイド家系」という概念が存在するほど、家系的な影響も大きい

 

 ・黒人にはできやすく、白人にはできにくい

 

 

 

 

 

瘢痕・ケロイドの治療について

 

 

肥厚性瘢痕とケロイドの分類(鑑別)

 

 ● JSW Scar Scale(瘢痕・ケロイド治療研究会)  

 

 

 

 

肥厚性瘢痕

 

1~5年以内に成熟性瘢痕へと移行するが、部位によってはひきつれ(瘢痕拘縮)が残存することがある。

 

 

 

ケロイド

 

圧迫でも多少の改善は期待できるが、ステロイドを含んだテープの使用が有用。皮膚の厚い大人には「エクラープラスター」、皮膚の薄い小児や高齢者には「ドレゾニンテープ」が効果的。

 

そのほか、ステロイド軟膏の使用や「ケナコルト-A(トリアムシノロンアセトニド)」のケロイド真下への注射、難治例においては放射線治療や形成外科手術が行われる場合もある。

 

 

なお、内服薬では「リザベン」や「柴苓湯」が有効との報告もあるが、その効果の程度については不明な部分も多い。患者から内服薬での治療を求められたら、処方するのも一つの手。

 

 

 

 

 

慢性創傷治癒を阻害する原因 「TIME」

 

症状 病態 創環境の改善方法 治療の意味・効果
Tissue non-viable or deficient
壊死組織・不活性組織
細胞間質が損傷し壊死組織となり、創底から細胞増殖できない デブリードマン 創底が改善し、肉芽増殖
Infection or Inflammation
感染・炎症
細菌の増殖や遷延する炎症 感染巣の除去(デブリードマン・洗浄) 細菌数の減少により過剰な炎症が収束し、細胞が増殖
Moisture imbalance
湿潤のアンバランス
乾燥・浸軟により細胞が増殖できない 適度な湿度が保たれるよう創傷被覆材などを利用 適度な湿度によって細胞が増殖
Edge of wound non-advancind or determined
状態の悪い創の断端・皮下ポケット
断端から細胞が増殖できない 外科治療
その他の補助治療

デブリードマン
皮膚移植
創の断片から再生

 

 

 

備考:

 

・T ⇒ I ⇒ M ⇒ E の順で本当に進んでいくので、これに沿って大きな傷や褥瘡は考えていけばいい。

 

皮下ポケットについては、十分に経過を見守ってもあまり閉じてこない時には、開放してしまった方が早く治ることもある。

 

・開放した創が広範囲で感染を起こしていたり、壊死組織が残存している場合には、生食ガーゼを用いた「wet to dry dressing法」が有用  

 

 

 

 

 

「TIME」において使用する薬

 

 

「T」の時期に使う薬:壊死組織の融解

 

 

 ブロメライン軟膏

 

パパインの酵素で壊死組織を融解させる。周囲の皮膚に接触すると接触性皮膚炎が生じるため、注意して塗布。周囲の皮膚にワセリン基材の軟膏塗布したり、フィルムドレッシングを行う

 

 

 ゲーベンクリーム

 

昔からある薬。スルファジアジン銀の成分で、特に緑膿菌に対よい抗菌作用を示す。組織を柔らかくして自己融解を促進。滲出液の多い創傷には適さない。

 

 

 

 

「I」の時期に使う薬:炎症や感染の軽減

 

 

 亜鉛華軟膏

 

収斂、消炎、吸湿作用、過剰肉芽や陰部など汚染されやすい部分の保護に使用。接触性皮膚炎の改善に有用。

 

 

 イソジンゲル軟膏・ユーパスタ軟膏・カデックス軟膏

 

ポピヨンヨード製剤。持続的な殺菌作用を持ち、過剰な滲出液を吸収する。正常皮膚に付着することで皮膚炎を起こすため要注意。

 

 

 ゲンタシン軟膏など

 

アミノグリコシド系の硫酸ゲンタマイシン製剤。

 

 

 ロコイド軟膏・デルモベート軟膏など

 

過剰肉芽に対して血管収縮を起こさせる。一時的な使用(一週間以内)にとどめる。

 

 

 

 

「M」の時期に使う薬:不適切な湿潤環境の改善、肉芽の増殖

 

 

 フィブラストスプレー

 

bFGF製剤。血管新生・肉芽形成促進。5cm離して噴霧し、30秒間待つ。

 

 

 プロスタンディ軟膏

 

局所血流改善するプロスタグランディン製剤。肉芽形成を促進。潰瘍全般に適応。

 

 

 

 

「E」の時期に使う薬:不適切な創縁の改善、上皮化の改善

 

 

 アクトシン軟膏

 

滲出液の吸収作用や傷の収縮作用があり、上皮化改善に有用。疼痛があったり、乾燥しすぎる場合には変更する。

 

 

 

 

 

備考:

 

・湿潤環境は大事だが、湿潤させ過ぎると「浸軟(しんなん)」となって、逆に傷が治りにくくなるため注意。

 

・上皮化が進んだ状態になったら、乾燥させた方が早く治る。

 

「傷が生んでいるから」と言って何でもかんでもデブリードメントしていい訳ではない。虚血が原因となっている創のデブリードメントは禁忌。その場合は、血管外科にコンサルして、まずは血行再建が第一選択になる。全身状態が難しいようであれば、ミイラ化させることも検討する。

 

 

 

 

 

「折れない心」について

 

 

レジリエンス(resilience)とは

 

「復元力、回復力、弾力」などと訳される。近年は特に「困難な状況にもかかわらず、しなやかに適応して生き延びる力」という心理学的な意味で使われるケースが増えている。。

 

 

 ・レジリエンスの低い人:

 

  一喜一憂して、自己を過小評価しがち

  挫折や困難に直面すると「無理」、「向いていない」と思いがち

 

 

 ・レジリエンスの高い人:

 

  楽観性が高く、自己効力感が高い

  挫折や困難に直面しても「きっとできる」、「成長できる」と思える

 

 

 

レジリエンスを高く保つコツ

 

  ・状況に一喜一憂しない感情の安定を図る

 

  ・自分を過小評価しない自尊感情を持つ

 

  ・成長前進していると感じることができる自己効力感を獲得する

 

  ・失敗してもいつかできると考える楽観性を持つ

 

 

 

 

備考:

 

実験結果によると、レジリエンスが高い人たちは、失敗を繰り返す中でも少しずつ自分の成長を感じており、「いつかできるだろう」という気持ちを抱いていたことが判明している。

 

また、レジリエンスが高い人には、誰かしら「自分を信じて応援してくれる人」が存在している場合が多かった、という実験結果も出ており、「自分を信じて応援してくれる人との繋がり」を持つことが大事だと言える。

 

 

 

 

 

参考:息抜きの仕方の「良し悪し」(米国心理学会 発表)

 

 

 良い息抜き

 

  ・エクササイズやスポーツ

 

  ・礼拝に出る

 

  ・読書や音楽を楽しむ

 

  ・家族や友人と過ごす

 

  ・マッサージを受ける

 

  ・外へ出て散歩する

 

  ・瞑想やヨガを行う

 

  ・クリエイティブな趣味の時間を楽しむ

 

 

 

 悪い息抜き

 

  ・ギャンブル

 

  ・煙草

 

  ・お酒

 

  ・ドカ食い

 

  ・テレビゲーム

 

  ・インターネット

 

  ・2時間以上のテレビや映画

 

 

 

 

 


 

なお、ウェビナーの途中では、「他の一般的な医師とは異なった道を歩んでいることへの不安感を感じている方はいますか?」という西津先生の問いかけに対して、西津先生を含むほぼ全員の手が上がる一幕も。

 

お気に入りの気分転換やリフレッシュの方法についてだけでなく、お互いの不安な気持ちも分かち合いながら前に進もうとする、研修生たちの仲間意識と連帯感が印象的な回でした。

 

 

 

 

 

 

The Registrar’s Lecture, a webinar for enhancing the registrars’ abilities and the quality of their training through sharing their experiences and knowledges among their fellows, successfully dropped a curtain, the other day.

 

This time, Dr. Nishizu was a webinar presenter and he set 4 topics for the session:

 

 

  1.Skin Incision and Keloid

 

  2.Treatment for Decubitus and Wound

 

  3.Acronyx

 

  4.How to motivate yourself

 

 

In the last part of the session, Dr. Nishizu asked all other registrars that “do you feel some anxiety about you had been taking different path from many other common doctors?”. And, interestingly enough, almost everyone answered “Yes”.

 

Then, they proactively started to share the ideas and their favorite methods of refreshing and motivating their selves with each other. Finally, each of them found some good ideas respectively and boosted afresh their morale.

 

Actually, the scene convinced me that they must be going to help each other while accomplish the RGPJ to the end.

 

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