『ウェビナー報告日誌「Case Based Discussion」編 vol.2 ―皮膚科 編―』

 

様々な症例を題材に取り上げ、その対処法や原因などについて学習するためのオンライン症例検討会『Case Based Discussion』。

 

今年最後となる今回は、益田地域医療センター医師会病院にて研修中でもある松原 秀紀先生と、松原先生の指導医の一人で皮膚科の専門開業医でもある大畑先生を講師に迎え、皮膚科について講義をしていただきました。

 

 

 

 

今回の講義においては、松原先生が実際に研修中に遭遇した印象深かった症例を幾つか抜粋。その原因と対策について、大畑先生からの専門的な解説も交えながら紹介していただきました。

 

 

以下に、その主な内容を共有したいと思います。

 

 

 

ケース1:80代女性の顔面の皮疹と下腿浮腫

 

【現病歴】

・かかりつけ医から「下腿浮腫が良くならない」とのことで紹介受診

・来院時、顔面に紅斑を伴う皮疹あり。浮腫と関係があるのかは迷った。

・患者は搔痒感を訴えず、発症した原因についても「心当たりはない」とのこと。

 

【考えられる初期対応】

1.経過観察

2.何かの疾患を疑い、血液検査を行う

3.その他

 

【実際の診断結果】:

 

「ヌカ蚊」に刺されたことが原因

 

 

「ヌカ蚊」とは:

 

・ハエ目ヌカカ科に属する昆虫

・ゴマ粒並みに小さいため、網戸も通過してしまう

・一般的には、キャンプ場などで刺されることが多いとされる

・手で払いのけられない寝たきりの方や認知症の方も刺されることが多い

・症状は特になく、痒みの訴えも少ない

・完治まで一週間以上かかることもある

・薬については、対処療法でよい(ステロイドなど)

 

【備考】:

 

・後の精密検査の結果、患者に胃がんが発見される。

・下腿の浮腫は皮疹とは関係がなく、胃がんが原因だったことが判明。

・ヌカ蚊は、皮膚を刺して溢れてきた血を吸うため、赤い皮疹はすべて出血班。

・診察後、実際に病棟の患者を診て回ったところ、寝たきりや認知症の患者に同様の症状を発症している人が数多く見られた。

 

 

 

ケース2;40代男性の全身に及ぶ皮疹

 

【主訴】 発熱・全身の皮疹

 

【現病歴】

一週間前の就寝時に倦怠感あり。悪寒戦慄は見られなかったが、身体に火照った感じがあり、自宅で療養していた。その翌日、上腹部に点状の皮疹が出現。その後、四肢にも発赤が出現し、改善が見られなかったため、かかりつけ医を受診し、点滴(アセリオ)と抗菌薬(セフカペンピボキシエル)の内服を行った。麻疹と風疹の検査結果は、陰性だった。その後も改善が見られず、精査のために紹介受診となった。

 

ROS

陽性所見:頭痛、手指の動きにくさ、嘔気・嘔吐

陰性所見:咽頭痛、腹痛、下痢、皮膚の搔痒感

 

既往歴:鼻中隔湾曲症OP

定期内服;なし

家族構成:両親、本人、妻、子供二人

シックコンタクト:なし(山などにも行っていない)

海外渡航歴:なし

ペットの飼育歴:なし

職業:救命士

 

【バイタル】

意識清明

BP 132/76 mmHg、PR 111回/分(整)、BT 37.9℃、 SpO2 97%(Room Air)

 

【身体所見】

173cm / 79kg

頭頸部:眼球結膜に黄染なし、眼瞼結膜に蒼白なし、リンパ節膨脹なし、咽頭発赤・疼痛なし

胸部:呼吸音清、左右差なし、心雑音なし

腹部:平坦・軟、圧痛なし

四肢:浮腫なし、皮疹あり

体幹:紅斑を伴う皮疹あり

 

【実際の診断結果】:

 

「日本紅斑熱」の可能性が高い

 

 

【初期方針】:

 

病歴と全身の皮疹の状態から「日本紅斑熱」を疑い、採血結果に肝機能上昇とPLT低下も認められたことから、「ミノサイクリン塩酸塩点滴100mg」の一日二回投与での治療を開始。

 

【入院後経過】:

 

・保健所に送った検体からは「陰性」との報告あり。

 

・入院後数日間は38~40℃の発熱が続いたが、五日目から解熱あり。それに伴い、紅斑も消退し、色素沈着となった。

 

・八日目からミノサイクリンを内服に切り替え、全身状態が良好だったことから退院し、外来フォローとした。

 

・発熱から二週間後に外来でペア血清を採取し保健所に送ったところ、「日本紅斑熱」と確定診断された。

 

 

「日本紅斑熱」について

 

【原因】

 

リケッチア感染症で、病原体リケッチアを保有するマダニの吸着によって感染する。

 

 

【臨床症状】

 

・吸着後2~8日間で39~40℃の高熱が出現し、全身倦怠感、頭痛、関節痛、筋肉痛などを伴う

 

・体幹、四肢には自覚症状のない直径5mm前後の境界不鮮明な淡い紅斑、ないし丘疹が播種状に認められる。手掌や足底に認められることもある。

 

・マダニが吸着した部位には、直径5mm程度の痂疲を伴う紅色丘疹ないし紅斑が見られる。

 

 

【検査所見】

・白血球は正常なことが多く、増減は一定しない。分画では好酸球が消失する。血小板は減少することが多く、重症例ではDICを生じる。

 

・AST、ALTなどの肝酵素の値が上昇し、CRP高値、低Na血症、尿蛋白、尿潜血陽性などを認める

 

 

【診断】

 

・刺し口や痂疲の皮膚組織、あるいは全血を用いたPCR法で特定。

 

・血清中の特異抗体の上昇を確認する方法

 

 

【治療と予後】

・第一選択薬は、テトラサイクリン系抗菌薬。ミノサイクリンあるいはドキシサイクリンも用いる。

 

・通常、200mg/日を点滴もしくは経口で7~14日間投与する。

 

 

【備考】

益田の地域では、4~5年前から日本紅斑熱が発見され始めたが、それまではほとんどなかった。

 

・大半のケースにおいて、マダニの刺し口は見つかる。稀に見つからないこともある。ただし、その場合も頭髪を剃ったりすれば見つかると思われるが、それもなかなかそれも難しい。

 

・「日本紅斑熱」と「ツツガムシ病」との鑑別は難しい。後者の方が、刺し口は大きい。SFTSは、皮疹がないので鑑別しやすい。

 

・鑑別の基準の一つとして、ツツガムシ病は「冬」の病気(ダニではなくツツガムシが媒介)。11月を過ぎてから。対して、マダニは「夏」の病気。

 

SFTSに感染したペット(猫)にかまれた人が、SFTSに感染することも割と良くあるので要注意。

 

子供に投薬する場合、「ジスロマック」が第一選択薬。ミノサイクリンは子供には使いづらい。

 

 

 

ケース3(おまけ):しいたけ皮膚炎(しいたけ中毒疹)

 

【主な症状】

 

・搔痒感がある

 

・掻くことで発疹が出る(スクラッチダーマタイズドが起こる)

 

搔破痕に一致した線状の紅班が認められる。小さな球疹が無数に連なり、線状になる。

 

 

【原因】

・生しいたけの経口摂取(皮膚接触では発症しない)

 

 

【治療法】

 

・抗アレルギー剤の内服とステロイドの外用で軽快する。

 

・軽快するまでに一週間くらいはかかるため、そのことについて予め患者に伝えてあげたほうが親切。

 

 

【予防法と対策】

 

・しいたけを60℃以上に加熱すると、しいたけ皮膚炎を引き起こす「何か(具体的な物質は同定されていない)」が不活化すると言われている。

 

・ただし、「しいたけ紅茶」で発症したという報告もあるため、絶対に大丈夫だとは言い切れない。

 

・現時点では、「アレルギー」ではなく「中毒」だと考えられている。

 

・摂取量が増えると発症しやすくなり、また症状も酷くなる。

 

 

【備考】

 

・線状の発赤は「掻く」ことで初めて出現するため、描かなければ発赤は生じない。

 

・発症し完治した人には、「今後はしっかりと過熱してからしいたけを食べる」、「あまり量を食べ過ぎないようにする」よう現実的な指導をしている。

 

 

今回の講義では、皮膚科の専門医であってもあまりお目にかからることの少ない症例が取り上げられたこともあり、参加された研修生はもちろん、ウェビナーの進行役を務められた山口先生もが、終始興味深げな様子で講義に耳を傾けていらっしゃいました。

 

特に、講義の最後で登場した「しいたけ皮膚炎(しいたけ中毒疹)」に関しては、症状の原因についてクイズ形式で出題されたのですが、最後まで誰もまさか「しいたけ」が原因だとは思い至らず。

 

 

満を持して大畑先生によって正解が発表された際には、予想外の原因に誰もが一様にとても驚いていましたが、知的好奇心を刺激されていた様子が何とも印象的でした。

 

 

 

 

 

The Case Based Disscussion, a regular monthly online grand round, was held again this month.

 

This time we had invited Dr. Hideki Matsubara and Dr. Ohata and they gave a lecture focusing on dermatology. In the lecture, they used the cases that they actually faced with in their daily medical practice.

 

 

For your information, the gist of the lecture are as follows:

 

 

 

 Case 1.  Ceratopogonidae

 

 Case 2. Japanese Spotted Fever

 

 Case 3.  Shiitake Mushroom Dermatitis

 

 

 

In the lecture, they gave explanation about causes and treatment approaches of each cases in detail, using many visual aids.

 

According to them, it is basically rare even for dermatologists to encounter the cases above. Especially, Shiitake mushroom dermatitis is less-noted, so the person who doesn’t know the existence of it is normally found even in dermatologists.

 

 

It seemed that all of the registrars who attend at the webinar was intellectually and interestingly stimulated so much by absorbing new knowledge thorough this lecture.

 

 

 

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