『ウェビナー報告日誌 2021「Registrar’s Lecture」編 vol.2 ― 症例検討から考えるACP ―』

 

研修中に遭遇した難しい症例について一緒に検討したり、抱えている課題や悩みについて意見を交換しあったりと、まさに “研修生の研修生による研修生のためのウェビナー” と言える『Registrar’s Lecture』。

 

今回は、「症例検討から考えるACP(Advance Care Planning)」をテーマに、現在は益田地域医療センター医師会病院にて研修中の上田先生が発表者となり、実際に先日、上田先生が研修中に出会った2つの印象深い症例について検討が行われました。

 

 

以下に、内容を抜粋してご紹介いたします。

 

 


 

 

症例①:概要

 

82歳女性

  貧血・体重減少・食思不振で紹介

 

 

 

【 診断結果 】

鉄欠乏性貧血が認められたため、上下部消化管内視鏡検査を実施。

 

【 検査結果 】

胃前庭部毛細血管拡張症

(GAVE / Gastric Antral Vascular Ecatsia)

 

【 処置 】

内視鏡処置(APC)を実施

 

 

【 経過 】

一時貧血は落ち着くものの、徐々に貧血進行し、1ヶ月に輸血が4単位ほど必要になる状態が継続。

  ⇒ 再度APC(Algon Plasma Coagulation)を実施?

  ⇒ 幽門側胃切除?

 

 

 

 

悩み①

 

・へき地での診療を行っていると、どこまでの診療を自分で完結させて良いのか自問自答することが多くなる。また、医療的に正しい(と自分が思っている)ことが、必ずしもその人にとっての最良とは限らない

 

 

・ただ、へき地に限らずどの土地で診療するにしても、その人にとっての最良をしっかりとした意思決定能力を持って決断できる高齢者は、非常に少ない

 

 

・また、継続してその土地に住む訳ではないので、長期的に責任を持つことができず、その後の医師の裁量で患者を振り回すことになりかねない。

 

 

 

 

 

症例②:概要

 

89歳女性

  当直中に発熱・酸素下低下でcall

 

 

【 経過 】

18時30分頃に夕食摂取中に訪室すると、顔面蒼白あり。手指チアノーゼ出現しているところを看護師が発見。吸引で大量の喀痰、食物残渣吸引し誤嚥と判断。酸素投与開始。酸素10L投与から開始し徐々にテーパリングしていたが、23時頃に徐々に酸素投与量が増悪し、24時に当直医コール。

 

【 バイタル 】

BP120/99、BT38.7度、呼吸数30回以上(呼吸補助筋の使用あり)、SpO280%(O201Lリザーバー)、HR110-130(不整)

 

【 身体所見 】

指示には従い、合視あり。発語可能。

努力呼吸著明。

胸部:両側肺背側air入り非常に悪く、両側吸気呼気ともにcourse crackles著明

 

【 血液ガス 】

P/F比70-80(CO2retentionなし)

 

【 診断結果 】

誤嚥性肺炎 + 心不全

 

 

 

症例② どう対応すべきか?

 

▷ カルテ記載の「急変時コード」

 

  ① 介護医療院での対応

  ② 本人の自然の回復力に任せる

  ③ 病院側だけで看取りを行うのもやむを得ない

 

備考

上記記載カルテの1ヶ月前のカルテには、「急変時には、家族が到着するまで心臓マッサージ継続を希望。家族付き添い時は、自然にみとる方向」との記載あり。

 

 

【 周囲の反応 】

 

  ・主治医に連絡すると、「当直医の先生で対応していただいてかまいません」との回答。

  ・看護師の話によると、「医療介護院内での対応で、ご家族さんも気管挿管などは望まれていません」とのこと。

  ・「先生、その患者さん、DNARなんです」

 

 

【 背景 】

 

  ・徐脈性心房細動のためPM留置(自己脈とペーシング混在)

  ・MR(severe)AS(moderate~severe)TR(severe)の慢性心不全

  ・CKD(G3bA3)

  ・水分コントロールがうまくいっておらず、酸素投与1L程度が持続

  ・認知機能低下はあるが、意思疎通可能で食事も全量摂取可能

  ・両手支持あれば起立動作は可能

 

 

 

悩み②

 

医療を提供する環境

  ⇒本来であればもちろんHCU、ICU管理が妥当

 

どこまで話し合われているかは不明だが、積極的な医療は確かに望まれていなかった様子?単なる無関心?

 

患者のtrajectory curveは意識

  ⇒ これが本当に妥当な過程なのか?

  ⇒ 本人は望んでいるか? 家族は望んでいるか?

 

極端な話、餅を喉に詰めてしまった高齢者に対して、「DNAR」とカルテに書かれているからって何もしなくていいのか??

 

 

【とにかく、まずはご家族に電話連絡】

 

キーパーソンは、息子さん。

⇒ 非常に淡白で、特に動揺されることもなし。「そうですか、先生にお任せします」。特に質問などもなく、無反応に近い。

 

・今回のエピソードは、明らかに誤嚥が契機となっている。

・気管挿管を行うことで救命できる可能性は十分にあるが、抜管できるかどうかは不確かであることなどから、time-limited-treatmentとして、1~2週間はしっかりと治療を行うことを提案。

 

 

 

 

 

ACP(Advance Care Planning)とは

 

・いわゆる「事前指示」や「コードステータス(DNARまたはFullcode)」を作成することではない。

あくまで「過程」のことであり、「患者の価値観や人生観は傾聴したものの、事前指示はまだ作成できていない。あるいは、心停止時の方針が決まっていない」という段階があっても良い。

 

 

 

ACP(Advance Care Planning)のタイミングと手順

 

▷ タイミング

 

  ① 急性疾患で入院したが、急変リスクは低い時

  ② 急性疾患で入院し、手術や挿管が差し迫っている時

  ③ 予後が悪いと判断した時

  ④ 退院カンファレンス

 

備考

 

  外来ベースではなかなか時間的にACPを行うことが難しい場合が多い。

  入院主治医を持った時に、ACPを行うことは非常に重要。

 

 

▷ 手順

 

  ① 患者の心の準備段階を考える

  ② 代理意思決定者の選定

  ③ 価値観・ゴールの確認

  ④ 患者の価値観・意向を反映させた治療を考える

  ⑤ カルテ記載

 

 

 

「POLST」を知る

 

POLST(Physician Orders for Life Sustaining Treatment)

 

・広く「DNAR指示」という言葉は使用されているが、あくまで「DNAR」は「心肺停止時にCPRを行わない」というだけの意味であって、「DNAR指示」とは、その意志に沿って医師が出す指示のこと。

 

・つまり、「DNAR指示」は、その他の「CPR以外の医療行為」について影響を及ぼさない。

  ⇒ 他の医療処置(気管挿管など)についても、具体的に考慮する必要がある。

 

・日本臨床倫理学会は、「POLST」という形式を採用している。

 

 

備考

日本版 POLST(DNAR指示を含む)作成指針

 

 

 


 

 

上田先生から提示された「悩み」には、他の先生方も共感するところが大きかったようで、今回のウェビナーを通じては、単なる「症例検討」にとどまらず、むしろ実際の症例を足掛かりとして「医療と命」、「患者(家族)の意志と延命・救命」「『最良の選択』とは」、「生の決定権」とでも銘打つべきような哲学的な領域にまで踏み込む話が深められることとなりました。

 

実際、当初は30分で終わる予定だった上田先生のレクチャーでしたが、1時間まるごと使ってもまだ話の尽きないほどに様々な意見が飛び交う回となり、居合わせた研修生の誰もにとって非常に考えさせられることの多い、とても有意義な時間となったようでした。

 

 

 

 

 

 

 

The Registrar’s Lecture, a webinar of the registrars, for the registrars, by the registrars, was successfully conducted last week.

 

 

In the session, Dr. Kazuki Ueda, who had been working and training at the Masuda Medical Association Hospital, played an role as a presenter and he mainly focused at ACP(Advance Care Planning) through an online ground round cited the cases that he had experienced at the hospital indeed.

 

In his talk, he shared conflicts and anguishes with other registrars, which he had actually experienced when he had tackled with the cases. Interestingly enough, those sufferings evoked empathy among the registrars to a greater or lesser, because the issues he had had before were really universal for any doctors.

 

 

 

Finally, the topics of the discussion among them covered not only an area of healthcare, but also a realm of philosophy, such as “life and healthcare”, “patients’ will and doctors’ decision”, “the ownership of the right of decision to end patients’ lives”, and so on.

 

Everyone sufficiently exchanged and shared their opinions with others through the session, so it seemed that they eventually were able to deepen their wisdom and perception as A doctor.

 

 

 

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