『ウェビナー報告日誌 2020「Rural Skills」編 vol.3 ― RGPJ的 手技時の鎮静 ―』

 

毎回、異なる分野に精通したベテラン医師を講師に招き、離島やへき地での医療に求められる手技や知識について学びを深めるための『Rural Skills』。

 

今回はゲネプロの指導医であり、麻酔科の専門医として経験も豊富な山口 卓哉先生が講師を務め、幅広い分野を修めるGPとして身に付けておきたい麻酔科の知識を中心に講義は展開されました。

 

 

普段から “指導慣れ” している賜物か、「研修生がちょうど求めていた知識」を的確に伝授していく山口先生。「鎮静剤」と「鎮痛剤」の用法容量に関する考え方などは、研修生たちも特に熱心に耳を傾け、講義後の質疑応答の時間も盛り上がりを見せることとなりました。

 

そんな講義の内容について、今回も一部抜粋して以下に共有させていただきます。

 

 


 

 

 

「鎮静」の大原則

 

 

  ①「鎮静」と「全身麻酔」は連続した状態にある

 

 

  ②「鎮静が安全で、全身麻酔は危険」は間違い

 

 

  ③  基本的には、全身麻酔と同じ準備で鎮静も行う

   (気道の評価・準備、絶飲食の確認、挿管7つ道具の準備など)

 

 

 

 

 

「鎮静」と「全身麻酔」に関する誤解

 

 

「鎮静」から「全身麻酔」までは、連続した状態であるため、全身麻酔は危険を伴うけど、鎮静は比較的に安全」という考え方は大きな間違い

 

「鎮静」も「全身麻酔」も連続した状態の線上にあるため、たとえ「鎮静」であったとしても不意に深くなってしまうと危険な状態に陥りかねない。

 

 

備考:

 

医療従事者よりも、患者や患者の家族などに多く見られる誤解なので、その点に関しては、しっかりと事前に説明しておいてあげた方がより安全で親切。

 

 

 

 

 

「絶飲食」の確認について

 

 

患者からの聴取の結果に不安がある場合や、何らかの事情でそもそも聴取が出来ない場合などには、エコーを当てて患者の胃の状態を確認する方法がおすすめ。

 

 

備考:

 

「胃が小さく萎んでいて、白っぽい模様のようなものが見えている」状態は、フルストマックじゃない状態の胃を見分ける分かりやすいサインの一つ。

 

実際に自分の体などを使って食後の状態でエコーを当てるなどして、「フルストマックかどうか」を見極める練習をしておくのもおすすめ。

 

 

 

 

 

「鎮静」の目標

 

 

【 麻酔科専門医 】

 

 ① 手技中には覚醒せず、手技終了後には速やかに覚醒する

 

 ② 鎮静に伴う副反応を生じさせない

 

 

 

【 Ruralな非専門医 】

 

 ① 手技中に「それなりに寝かせられる」

 

 ② 鎮静に伴う副反応に対応ができる

 

 

 

 

 

「鎮静」において考慮すべきこと

 

 

 ・ ワンショットか持続か(投与の方法)

 

 ・ 拮抗薬が存在しているのか否か

 

 ・ 鎮「痛」剤を併用するのか否か

 

 ・ 呼吸を止めても良いのか、止めたくないのか

 

 ・ 投与量は?減量する?(適切な投与量の見極め)

 

 

備考:

 

 ・「鎮静剤」と「鎮痛剤」とを分けて考えることが必要!

 

 ・ 「添付文書を見ながら使う」という考え方は重要(不慣れな薬品の場合には特に)

 

 

 

 

 

「鎮痛剤」について

 

 

ざっくりと考えた場合、モルヒネは「1A = 10mg」

 

 

 ・フェンタニル(0.1mg)× 50~100倍 = 5~10 mg

 

 ・レペタン(0.3mg)× 30~40倍 = 9~12 mg

 

 ・ペンタジン(15mg)× 0.25~0.5倍 = 4~8 mg

 

 ・オピスタン(35mg)× 0.1~0.2倍 = 4~8 mg

 

 

 

「1A」同士の効力で言えば、

 

 

モルヒネ ≒ フェンタニル ≒ レペタン ≒ ペンタジン ≒ オピスタン

 

 

というおおよその関係が成り立つ

 

 

 

備考:

 

 ・レペタン「以外」は、「ナロキソン」で拮抗が可能

 

 

 

 

 

「鎮静剤」の使い分けについて

 

 

【 ゆっくり 】寝かせたい場合 

 

  ・セルシン

 

  ・ミタゾラム

 

  ・ドルミカム

 

 

 

【 ガツンと 】寝かせたい場合

 

  ・プロポフォール

 

  ・イソゾール

 

  ・ケタラール

 

 

 

 

 

「イソゾール」の用法容量について

 

 

【 用法 】

 

 ・溶解が必要: 25mg/cc

 

 ・喘息患者には一応回避

 

 ・「3~5mg/kg」で投与: 30秒間 待つ

 

 ・追加で投与したい場合には、「2~4cc(50~100mg)」ずつ投与する

 

 ・15~20分で覚醒する

 

 

 

【 用量 】

 

2mg/kg 3mg/kg 4mg/kg 5mg/kg
40kg 3cc
(75mg)
5cc
(125mg)
7cc
(175mg)
8cc
(200mg)
50kg 4cc
(100mg)
6cc
(150mg)
8cc
(200mg)
10cc
(250mg)
60kg 5cc
(125mg)
7cc
(175mg)
10cc
(250mg)
12cc
(300mg)
70kg 6cc
(150mg)
8cc
(200mg)
11cc
(275mg)
14cc
(350mg)

 

 

 

 

 

「プロポフォール」の用法容量について

 

 

【 用法 】

 

 ・希釈せずに使う:10mg/cc

 

 ・卵・大豆・ピーナッツのアレルギーには回避

 

 ・導入に使うとしたら「0.5~2mg/kg」:30秒間 待つ

 

 ・注入時に疼痛がある

 

 ・追加で投与する場合には、「導入量の半分~同量」を追加する

 

 ・10分程度で覚醒する

 

 

 

【 用量 】

 

0.5mg/kg 1mg/kg 2mg/kg
40kg 2cc
(20mg)
4cc
(40mg)
8cc
(80mg)
50kg 2.5cc
(25mg)
5cc
(50mg)
10cc
(100mg)
60kg 3cc
(30mg)
6cc
(60mg)
12cc
(120mg)
70kg 3.5cc
(35mg)
7cc
(70mg)
14cc
(140mg)

 

 

 

 

 

「セルシン」の用法容量について

 

 

【 用法 】

 

 ・希釈せずに使う

 

 ・緑内障患者には回避

 

 ・麻酔導入に使うとしたら「0.2~0.3mg/kg」

 

 ・注入時に疼痛がある

 

 ・1分間程度 待つ

 

 ・追加するなら3~4時間後に行う(半減期が長い。50~100時間とも言われている)

 

 

 

【 用量 】

 

0.2mg/kg 0.3mg/kg
40kg 8mg 12mg
50kg 10mg 15mg
60kg 12mg 18mg
70kg 14mg 21mg

 

 

備考:

 

元気じゃない人 元気な人
舌根沈下でも良い人
40kg 0.5A 1A
50kg 0.5A 1A
60kg 0.5A 1A
70kg 0.5A 1A

 

 

 

 

 

「ミタゾラム・ドルミカム」の用法容量について

 

 

【 用法 】

 

 ・希釈して使う:1A(2cc) + 生食(8cc)で合計「10cc(1mg/cc)」

 

 ・胃カメラなど:「0.03~0.05mg/kg」を初回投与

 

 ・1分間程度 待つ

 

 ・追加で投与したい場合には、「1mg」ずつ追加する

 

 ・胃カメラの検査だけなら「1.5~4.5mg」ぐらいで十分というデータもある
  (60歳前後 / 60kg前後)

 

 ・半減期は、約5時間

 

 

 

【 用量 】

 

0.03mg/kg 0.05mg/kg
40kg 1.2mg 2mg
50kg 1.5mg 2.5mg
60kg 1.8mg 3mg
70kg 2.1mg 3.5mg

 

 

 

 

 

まとめ

 

 

 ・ 鎮静は、全身麻酔と同じ準備を 

 

 

 ・ 自信があるなら、多めの投与を

 

 

 ・ 少なめの投与でも、覚えていないことが多い(無理せず少ない用量から使う)

 

 

 ・「使い慣れたもの」を持っておく

 

 

 ・ 持っていなければ他人のレシピを真似する

    ⇒上の先生などを参考にして、「どのように寝て、目覚めるか」を把握しておく

 

 

 

 

 


 

 

上記の他にも、画像を使ったエコーによる絶食確認のコツの指導や、実際に先生自身が撮影した術中の映像を使った「鎮静時の患者の反応」などに関する指導なども行われました。

 

そして今回、『100点満点の鎮静を目指さなくて良い』というメッセージで講義を締め括られた山口先生。「完璧な鎮静でなくとも、患者の状態を見極めながら、的確に目の前の状況に対処できることが大事」という言葉に頷く研修生たちの、真剣な面持ちが印象的でした。

 

 

 

 

 

 

Last night, we hosted online the Rural Skills, a regular monthly webinar targeted at practical skills and knowledge that required for healthcare in rural and remote areas.

 

This time, Dr. Takuya Yamaguchi, who had been a veteran anesthesiologist and supervisory doctor of Genepro, became a lecturer for the session and he shared a lot of anesthesiological knowledge and useful tips with registrars through the lecture.

 

 

By virtue of his accumulated experience as a supervisor at Genepro, Dr. Yamaguchi adequately provided them with what the registrars had just wanted as a GP in residency training, so everyone inclined their ear to him.

 

Actually, it seemed that the tips on dosage and administration of each analgesics and tranquilizers, especially some simplified charts of its dosage, gave them a special delight.

 

 

“You would never have to be always perfect in anesthesia”, said Dr. Yamaguchi.

 

 

He told the registrars at the end of his session that it should be truly important for GPs whether you are able to ensure a precise response to the situation at hand depending on patient’s condition. All of them seemed to be encouraged by his heartening message.

 

 

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