『ウェビナー報告日誌 2020「Rural Skills」編 vol.1 ― 日常診療と皮膚科疾患 ―』
多岐に渡る手技が求められる総合診療の中でも、特に「離島やへき地で必要とされる手技」に焦点を当て、毎回異なるテーマに沿って実践的な手技力の養成を図る『Rural Skills』。
記念すべき第一回目は、ゲネプロ第二期および第三期生の松原 秀紀先生と、同じく第二期生の上垣内隆文先生を講師に、更には益田医師会からは大畑 力先生を指導医にお招きして、「日常診療と皮膚科疾患」をテーマに講義を行っていただきました。
講義においては、実際に松原先生が「RGPJ」での研修中に遭遇した症例を題材に取り上げ、鑑別や処置を行う際の注意点やコツなどを交えつつ、多くの画像や映像を用いながら分かりやすく解説してくださいました。
講義の概要について、以下に抜粋してご紹介いたします。
・紅斑
・丘疹
・水疱
・膿疱
・びらん
・痂皮
・落屑
皮膚の異常と一言に言ってもその症状や状態は多岐に渡るため、その症状の特徴や細かな差異などについて的確に言葉で描写・伝達する表現能力が求められる。
なお、症状の様子を表現する際には、例えば「豆粒大の発赤」や「米粒くらいの発疹」と言ったように、具体的な「大きさ」に関する情報を入れるように意識すると良い。
皮膚科に罹る患者において、白癬(爪白癬・足白癬)の占める割合は大きい。以下は、一般的な白癬菌の検鏡方法。
1.刃を鈍にしたメスで周辺部の痂皮を削り採り、スライドガラスに乗せる
2.ズームブルーを垂らしてカバーガラスを被せた後、アルコールランプで数秒あぶる
3.顕微鏡で確認する
【 白癬の鑑別におけるポイント 】
・菌糸が見られれば、白癬菌と診断できる
・ただし、栄養状態によっては胞子しか確認できない場合もある
・白癬は中心治癒傾向があるため、境界部分の痂皮を採取するよう留意する
・メスがない場合や、メスを入れにくい部位を採取する際には、ピンセットを用いる
なお、手の白癬は少ない。また、水仕事の多い人にも白癬は少なく、むしろそういった人の場合には、カンジダの可能性を疑うべき。
ダーモスコピー(ダームライト)を利用して、患者のほくろの状態を確認する。特に「ダームライト(DermLite)」は便利なので、一本持っておくと良い。
【 ダームライト(DermLite)】
ダームライトは、ダーモスコープと同様の機能を備えた製品で、機能が簡素化されている分だけ安価。持ち運びに優れたり、専用ジェルを必要としなかったりと、総合的な利便性などを考慮すると、購入するならダームライトがおすすめ。
【 基底細胞がんの鑑別について 】
ダーモスコピーで確認した際に、樹枝状の血管が見えた場合、基底細胞がんを疑うべき所見。また、周辺部に「葉状領域」が広がっていたり、青白く変色している部分や「車軸状構造」が見られたりする場合も、基底細胞がんを疑うべき。
なお、ほくろの部分にびらんから潰瘍になっている状態が見られた場合は、基底細胞がんの確定的な所見。
【 良性と悪性とを鑑別する時のポイント 】
ダーモスコピーで確認した際、黒い部分が「溝」にあるか「丘」にあるかで判別する。溝に黒い部分ある場合(皮溝平行パターン)には、「良性」である可能性が高い。
一方、丘に黒い部分が見られる場合(皮丘平行パターン)には、メラノーマなど「悪性」のものである可能性を疑う。
ただし、先天性母斑(良性)なども皮丘平行パターンを示す場合もあり、皮丘平行パターンだからと言って必ずしも「悪性」だという訳ではない。
【 参考資料等 】
・『超入門 プライマリ・ケア医のための今日から使えるダーモスコピー』
【 皮膚に咬みついた状態のダニを除去する方法 】
1.Tick Twister を使う
2.18Gを使って取り除く
▷ 1.Tick Twister を使う
マダニの口吻部は後ろ向きのトゲで覆われているため、回転させながら取り除かないと、口吻部が体内に残ったままになってしまう。この方法による処置を試みる場合には、その点に要注意。
なお、口吻部が体内に残ったままになってしまうと、炎症がなかなか治癒しない。酷い時には、一年間ぐらい硬いしこりとして残り続けたり、強い痒みを引き起こしたり、炎症が全く引かないこともある。
一方で、口吻部さえ綺麗に除去できていれば、傷跡はあっという間に完治してしまう。
▷ 2.18Gを使って取り除く
1.ダニが咬みついている部分の皮下に18Gでキシロカインを注入し、皮膚を膨隆させる
2.18Gをスコップのようにして、口吻部ごと皮膚を切除する
【 切除する際のポイント 】
・ダニが噛みついている部分を、18Gを使って剥離させるイメージで切除すると良い
・患部の切除後、ダニをガーゼの上に乗せて生きているかどうかを確認。ダニが生きていれば、無事に切除完了した証
・上手く切除できれば、傷跡の縫合は不要。ガーゼを一時間ほど当てておけば止血する
・少し熟練が必要とされるが、器具などが何もない状態では、この方法が最も確実
Q.いわゆる「あせも」は、皮膚科的にはどういった診断名になるのか?
A.「あせも」は正式な病名ではない。皮膚科的に言うところのあせもとは、「汗疹(かんしん)」のこと。
「あせも」とは、汗をかいている時に出る発疹のことで、汗が引けばすぐに消えるもの。また、皮膚の内側に汗が溜まって出来る「水晶様汗疹」も同様に、汗が引くとすぐに消える。
一般的に「あせも」と呼ばれている症状は「汗疹性湿疹」のことであり、汗をかくことによって起こる湿疹性変化のことを言う。
なお、診察で患者と話している際に、「あせも(汗疹)」の定義(認識)のずれによって、お互いの話がずれてしまう可能性があるので、その点には注意が必要。
Q.臨床的には明らかに白癬だが、検鏡しても白癬菌が検出されない場合はどうする?
A.爪を検鏡した場合、白癬菌が見られない場合も多い。皮膚で白癬菌が検出されない場合、すぐには抗真菌剤を処方せず、逆にステロイドを処方してみるのも手。ステロイドを一週間くらい使うことで真菌が元気になるため、白癬菌が検出しやすくなる可能性も考えられる。
また、白癬菌が検出されなかった場合には、市販の抗真菌剤を使用しているかどうかを、まず患者に確認すること。もし使われてしまっていた場合には、絶対に白癬菌は検出されない。
なお、明らかに白癬だと確信できる場合には抗真菌剤をいきなり処方しても構わないが、発疹や炎症を伴うなど、他の疾患も鑑別する必要がある場合には、まずステロイドを処方して患部の炎症を抑えてみる。
炎症が収まった後に残るのはカビ(真菌)なので、そうなった時点で抗真菌剤を処方してあげると良い。
ちなみに、水疱を伴う水虫の場合、天蓋(水疱の上部表面部)を破って検鏡した場合、100%の確率で白癬菌が見つかる。もし天蓋から白癬菌が検出されない場合、まず白癬ではない。
なお、今回の講義においては、大畑先生による一歩踏み込んだ解説も要所要所で挟まれることになりましたが、その内容は「流石その道の大ベテラン」と思わず言いたくなるような、研修生たちにとって値千金のものばかり。
研修生の先生方も、「今がチャンス」とばかりに積極的に講師の先生方に質問をぶつけておられており、とても充実した時間となったようでした。
From current term, we have started to provide “Rural Skills”, a revamped webinar that focuses on wide-ranging procedures which are necessary for GP in the rural areas or remote islands, as one of our regular monthly programs.
This time, we set the following theme for the first lecture: Daily Clinical Practice and Dermatology. And, we invited two graduates of the RGPJ and one veteran dermatologist to it as guest lecturers and supervisor, respectively.
In the lecture, the graduates dealt with a lot of cases that they had actually faced with during the days of training as an RGPJ registrar and shared many useful tips on those with the registrars using a variety of visual aids.
Just for your information, the gist of the lecture are as follows:
・How to describe the patients’s skin conditions and convey it to others properly
・How to distinguish ringworm from other disorders
・How to distinguish between benign mole and malignant lentigo with dermoscopy
・How to safely remove tick from the patient’s body
・The difference between heat rash and miliaria from dermatological perspective
Actually, the lecture was conducted in a very interactive manner, so eventually the registrars aggressively raised their hands and hurled questions at lecturers in the Q&A session.
Fortunately enough, it seemed that the “Rural Skills”, as a new departure, were able to get off a good start.