卒業生への インタビュー全編
上垣内 隆文 先生
Dr. Takafumi Uegaito
都市部の総合診療でもクリニック開業後も、
このプログラムで学んだことが一番役に立っている
ゲネプロと提携する益田市医師会の「親父の背中プログラム」に応募して下さった経緯を教えてください
私はもともとへき地医療に興味があり総合診療・家庭医療の専門研修を受けておりました。
専門研修最終学年となった際に、まだまだ自分の臨床力では太刀打ち出来ないと考え「へき地・離島で戦える医師になること」というゲネプロのビジョンや、益田の親父の背中プログラムではへき地・離島診療所で必要な様々な科のトレーニングを積むことができると考え応募しました。
診療所というセッティングでは幅広い知識や技能が必要となりそのトレーニングをするために益田の開業医の先生方の力をお借りしました。
医師会病院での研修はどうでしたか?
私は、益田地域医療センター医師会病院を基幹病院にし、午後からは曜日を決めて開業医の先生方のところで研修を行なっていました。
私が勤務していたときの医師会病院は地域の亜急性~慢性期医療を支えている病院であり、内科、外科、整形外科、放射線科、リハビリテーション科、婦人科、病理科の常勤の先生方もいらっしゃり、各科別け隔てなくディスカッションできる環境でした。私は内科をメインに急性期病棟や地域包括ケア病棟や健診、胃カメラの担当をしておりました。
私が今まで勤務していた病院は、急性期病院が一番長く、医師会病院のような亜急性~慢性期の病院も1年程経験しておりましたので、医師会病院の勤務環境にはすぐ慣れることができました。
開業医の先生方のもとで、どのようなことを学びましたか?
皮膚科ではそもそも「皮疹とはなにか?」といった講義だけでなく、真菌感染症のKOH標本の作成から診断加療、ダーモスコピーの使い方、火傷や褥瘡処置、類天疱瘡や日光角化症などよくある高齢者の皮膚病の生検、病理診断など研修を積みました。
整形外科では、骨折の見かた、固定の仕方や急性期病院へのコンサルテーション、痛みの取り方といった事も学びました。
耳鼻いんこう科では聴力検査を初めとし、耳、鼻、喉の診察技法などを習得しました。中耳炎の鼓膜切開や鼻出血への処置、めまい症の診断方法、嚥下機能の診断などの研修などもうけております。
泌尿器科では尿沈渣スライドの見方、在宅自己導尿の指導、超音波を用いた前立腺肥大症などの診断などの研修をおこないました。
内科・小児科開業医研修では、一般外来のみならず、産業医活動や訪問診療などの研修をうけておりました。
その他、益田日赤病院、保健所等でも様々な研修を積ませて頂きました。
家族のみなさんは益田市にすぐに馴染めたのでしょうか?
医師をしている妻は麻酔科後期研修を1年先延ばしにして益田市に来てくれました。益田市は生活に必要な物はすべて市内で揃います。
妻は、内科・小児科の開業医の先生の元でバイトをしつつ、麻酔科研鑽も積むため隣町の浜田医療センターまで汽車で通勤し麻酔科勤務をしておりました。
休日は山口県や広島県にでて遊ぶ事も多かったですね。
選択研修はネパールに行かれましたね
日本のへき地のみならず、世界のへき地に飛び込もうと思いネパールのへき地に選択研修で行きました。
ネパールの首都カトマンズからも空路で1時間、陸路で5時間程と遠く離れた場所にある病院に行きました。
病院では腸チフスやA型肝炎、PIDなどの感染症のみならず、子供が木に登って転落したことによる骨折や帝王切開など様々な症例を経験しました。
メディカルキャンプという病院からの出張診療のような形で、更に陸路(車)で5時間ほどかかるような集落に行き、そこの診療所で多数の患者さんの診察などもしました。
この研修を選択したのは臨床能力の向上が一番の動機ではあったのですが、研修では住民の医療に対する様々な価値観であったり研修終盤になるとSDH(健康の社会的決定要因)」について考えさせられる事も多かったです。
日本に帰ってきてからは都市部の診療所で家庭医をしていました。在日外国人も多く居住している地域で、ネパールで感じた事と同じような疑問にぶち当たることもあり…。その都度、多職種と解決策を考える活動をおこないました。それは開業した今も同じです。
診療所での勤務を経て2023年に在宅クリニックを開業されましたね
益田で学んだ診療所というセッティングで対応可能な疾病を、在宅のセッティングでも対応しております。訪問診療の患者さんは基本的に通院が難しい方が多いのですが、湿疹であったり外傷であったり内科以外の様々な問題に対して一人で対応してゆく必要があり臨床面でもゲネプロ時代の経験が役に立っています。
毎週水曜日にはゲネプロのウェビナーなどもあり、かなり大変だったのでは?
親父の背中プログラムだけで本当にお腹いっぱいであったのは事実でしたが、水曜日のウェビナーに参加することで英語学習へのモチベーションを保つ事ができました。
マッコイ先生の講義は、前職の家庭医療後期研修の総復習のような講義でもあり興味深く聴講できました。
プログラムに応募しようかどうか迷っている先生に、メッセージをお願いします
当初は、総合診療医としての幅を広げる意味で「へき地・離島で戦える医師になりたい」という純粋な思いでこのプログラムに参加しました。このプログラムが終わってからは、元々研修を積んでいた大学の医局に帰り、その医局人事で都市部の診療所に勤務となっておりましたが、都市部の総合診療でもこのプログラムで学んだ臨床的なスキルしっかり活かす事ができました。
今は在宅をメインとしたクリニックを開業しましたが、訪問診療ですと、他院に通院困難な方の対応をしてゆきますので様々な科のスキルが必要となり、このプログラムで学んだことが一番役にたっているかもしれません。
少しでも興味を持たれましたら、ぜひ一度へき地医療やゲネプロの門を叩いてみてください。