卒業生への インタビュー全編
松原 祥平 先生
Dr. Syouhei Matsubara
忘れられないカンボジアでの経験不足。
医療資源が乏しい環境であっても幅広く診療できる医師になりたい。
ゲネプロに応募してくださった経緯を教えてください
私はもともと都会の急性期病院で総合内科の後期研修後、消化器内科を中心に診療を行っていました。
医師5年目の時にJapan Heartという国際医療NGOを通して1週間だけカンボジアでの診療を経験しました。医療資源が乏しい環境下とはいえ、経験不足、ほぼ内科の知識しかなかったこともあり何も貢献できず、苦い思い出となりました。
日本に帰国後、経験を積んだことで環境が整っている大きな病院であれば、出来ることがどんどん増えていきました。しかし時折、カンボジアでの経験が思い出され、医療資源が乏しい環境であっても幅広く診療することが出来る医師、まさにDrコトーのようになりたいと考え、へき地医療に興味を持ちました。
研修先の大井田病院は、院長先生が外科/救急の先生でしたよね
そうですね。外傷、耳鼻道異物、鼻出血、粉瘤、脱臼、骨折、妊婦健診、小児科などなど、私の弱点であった内科以外の幅広い分野について学ぶことが出来ました。
また訪問診療、Drカーでの現場出動や船で1時間程度にある沖の島での離島医療、検死など病院外での業務に従事する事も出来ました。私の場合は幸運にも高知市の急性期病院で3ヶ月間Drヘリ勤務もさせていただき、とても貴重な経験でした。
とはいえ、初期研修以来の手技や未経験の手技が多かったので、最初はなかなか手が出ませんでした。ですが、田中先生の指導である程度実力に応じた難易度のチャンスを与えていただけました。少し難しい症例は隣でアドバイスもいただけたので挫折せず済みました。
また私の場合は同じ病院に研修に入ったゲネプロ同期が外科の先生だったため、小さなこともよく質問出来たのも大きかったと思います。
毎週水曜の夜にはゲネプロのウェビナー。大変でしたか?
とても有意義でした。
正直、疲れている日や仕事が残っている時は「ウェビナー出るの、きついな〜」と感じることもありました。ウトウトしている時もあったかもしれません。
しかし日々目の前の業務に追われていると、どんどん視野が狭くなるため、ゲネプロのウェビナーに参加して他の病院の同期や様々な講師と接点を持つことで良い頭の切り替えになったので、頑張って参加して良かったです。
あとは各専門分野のレクチャーでは医療資源が乏しいことや私たちが非専門医であることを理解している講師に教えていただけるので、翌日から実践しやすく、大変参考になりました。
また一般的なオンラインの勉強会と比較して受講者も少ないので細かい質問もしやすく、より理解が深まりました。
選択研修は、長崎大学の感染症内科(熱研内科)に行かれましたね
国際協力や熱帯医学に興味があったので、3ヶ月間長崎大学の熱帯医学研修課程に参加しました。普段日本では経験することが少ない熱帯病や渡航医学について学ぶことができ大変有意義でした。
海外旅行帰りや海外居住で日本へ訪れた体調不良者を診療する機会は今後、増えていくと思います。こうした経験は、日常診療にも活かせると感じました。
また今まであまり出会うことがなかった、国際協力に興味を持った仲間と知り合えたのも貴重な機会でした。
1年間の研修が終わった後も、先生は自主的に大井田病院に残りました。
まず病院の良さのみでなく、宿毛が住みやすく、居心地が抜群に良かったというのが大きいかったです。なんと地元に友達もできました。
はじめの1年間のプログラムでは幅広い経験をさせてもらえ、指導医がいる状況ではかなり出来ることが増えました。しかし学んだ手技などを一人で実践するとなると、トラブルシューティングや困難症例の対応に不安が残ったので、もっと修行させていただくことに決めました。
またコロナ禍で開催中止となっていた災害時の訓練やシュミレーションコースが、大井田病院に残れば参加でき、貴重な経験が出来るのではないかと感じたからです。
カンボジアにも再訪されたんですよね。
3年間にわたる大井田病院での経験後、再びJapan Heartを通してカンボジアへ行きました。
内科外来のみならず外傷や皮下膿瘍などの対応、粉瘤や脂肪腫のちょっとした外来オペなどを主に1人で実施することができ、初めてカンボジアに来た時に感じた無力感を払拭することが出来ました。また今まで経験したことがなかったひどい化膿性乳腺炎に対しても、その場で調べつつも切開排膿などの対応が出来ました。
未経験の事象に対して今までの経験を応用して対応することが出来たのは、へき地での経験があったからだと思います。自身の成長を実感することが出来て、とても嬉しかったです。実は何回かカンボジアで困った時に田中先生にメールで助けてもらったりもしていたのですが。
現在は、羽田空港の検疫所やクリニックで勤務、さらに大学院で研究もおこなっているそうですね
羽田空港の検疫所では海外から日本へ入国する旅客に対して、海外特有の感染症を持っていないかの判断をしています。そこでは長崎大学での熱帯医学の知識が大いに役立っています。
また飛行機内や空港内で急病人が発生した場合に出動することもあるのですが、その時は医療資源が乏しい環境で働いた大井田病院での現場出動や離島診療での経験が予想外に役に立っています。
ゲネプロに在籍中に「将来使わないかなぁ」と思ったこともありましたが、色々経験して良かったとしみじみ感じています。
また週に1回程度クリニックで外来診療も行っているのですが、巻き爪の処置や小児科診療、乳幼児健診、内科を受診した妊婦さんへの胎児エコーなども行っています。まわりには病院はあります。でも、周囲に紹介しやすい医療機関がなかったり、患者さん自身がほかの医療機関を受診したがらないこともあります。都心にいながらも離島へき地での経験がかなり役立っています。
大井田病院勤務中に田中先生の紹介で臨床研究のフェローシップを行っている高知大学の教授と出会いました。その先生を頼って、高知大学の社会人大学院に参加しています。基本的にはオンラインで学ぶことが出来るため、関東に帰ってきた今でもオンラインで授業を受けたり、アドバイスを頂きながら臨床研究に取り組んでいます。
プログラムに応募しようか迷っている先生にメッセージをお願いします。
ゲネプロの良い点はまず3つ。
「自身が学びたいことに適した病院を紹介してもらえること」
「離島へき地や医療資源が乏しい環境で働く際に必要な幅広い技術や知識が学べること」
「小さなコミュニティに入る際に求められる意識・配慮が学べること」
そして期間が1年なので、気に入れば残ってもいいし、最悪合わなければまた他を探せば良いという点も参加のハードルが低くてチャレンジしやすかったですね。
また私自身のことで言えば、ゲネプロに参加して一番良かったと感じている点は、「今まで知り合うことが出来なかったタイプの人脈ができたこと」です。
様々なバッググラウンドをもつ同期やOBOG、指導医と知り合うことができ、進路のより柔軟な選択が出来るようになりました。今でも同期やOBOGと連絡を取り合い、刺激を受けています。実は医療系以外のスタッフとの出会いにも大変感謝しています。人生の相談に乗ってもらったり、違ったものの考え方や気付きを与えていただいたり…。現在もその方々をよく頼っています。
へき地では専門家が少ないため、幅広い症例を自分で対応しなくてはなりません。そこはへき地で研修を受けるメリットと言えます。ゲネプロ内であればすぐに質問できるので、困ったら聞ける点も安心です。また他に医療機関が少ないため、自分で対応した患者さんが良くならなかったら自分の外来に来てくれやすいのもフィードバックを受けやすく、成長しやすい点かと思います。
ちなみに大井田病院のある宿毛市は食べ物が本当に美味しいです。居酒屋はもちろんのことスーパーのカツオもレベルが高いです。また人も優しく、よくお魚や文旦などの食べ物を大量にいただきとても驚きました。異なる土地に行くと醤油や出汁の味が違ったり、何にでもニンニクを添えたり、色々な食文化に触れることが出来たのも楽しかったです。
医学の知識・技術の成長はもちろんのこと、人として成長するきっかけをゲネプロは与えてくれると思います。迷っている先生方はぜひ!