『ウェビナー報告日誌「Specialist Lecture」編 vol.1 ―「眼科の手技」―』

 

専門的な知識や手技への理解を深め、総合診療医としての日々の診療に還元することを目的とした各科専門医によるオンライン講義『Specialist Lecture』。

 

今回の講師は、東京のやくも診療所にて院長を務めておられる石井 恵美先生。

 

 

 

 

石井先生は、眼科医として専門的なトレーニングと実務経験をしっかりと積まれた後、内科医へと転身を図り、現在は同院にて漢方専門医として活躍されていますが、今回は「眼科」をテーマに教鞭を執っていただきました。

 

 

以下に、今回の講義の概要を共有させていただきます。

 

 

 


 

 

押さえておきたい眼科手技 TOP5

 

 1.視力測定

 

 2.眼圧測定

 

 3.スリットランプ

 

 4.眼底検査

 

 5.眼科エコー

 

 

1.Tips on【視力測定】

 

■使い方をマスターしておくべき器具

 

・ランドルト環

・遮眼子

 

 

視力低下の要因 TOP5

 

【急性】

・網膜剥離

・網膜中心動脈閉塞症

・硝子体出血

・虹彩毛様体炎

・前房出血

 

【慢性】

・白内障

・糖尿病性網膜症の悪化

・老眼(調節力の低下)

・黄斑変性

・網膜色素変性症

 

 

1-1.死んだ魚のように目が濁っている = 角膜の浮腫みを示唆する兆候。緑内障発作の兆候。

 

1-2.虹彩毛様体炎 = ボールが目に当たった際などにしばしば発症する。比較的に緊急度は高くない。

 

1-3.網膜中心動脈閉塞症 = 一分一秒を争う処置が求められるほどに、緊急度は高い。自身の手に余る場合は、的確にアプローチ可能な病院などに素早く紹介することも重要。

 

1-4.近年、スマートフォンの普及により外斜視および内斜視の発症率も増加。「画面から顔を30cm話して、連続使用は30分まで」というのが、安全な利用における一つの目安。「20cm以内」の距離感で画面を見続けることで、外および内斜視になりやすくなってしまう。

 

1-5.老眼 = 以前はピントの調節が上手くできなくなるのは、一定以上の高齢者が中心だったが、近年ではスマートフォンの日常的な利用が原因となり、若い人々の間でもピント調節に問題を抱える人が増加。診察の機会も増えつつある。

 

 

2.Tips on【眼圧測定】

 

2-1.眼圧の基準値は「21.0」以下。「40~50」で頭痛を訴えていたら、緑内障の疑いが強い。

 

2-2.触診でも緑内障は鑑別可能。瞼を閉じた状態で目を触った時に、右と左で明らかに固さが違う時は、眼圧が高まっている可能性が高い。空気を入れた固い風船のような固さを感じたら、異常な状態を疑った方が良い。

 

 

・角膜が濁っている

 

・瞳孔が開いている

 

白目が血走っている

 

 

以上の所見が認められた上で、明らかな左右差があった場合は、緑内障の疑いが濃厚。

 

 

3.Tips on【スリットランプ】

 

3-1.「異物の排除」は、総合診療医にとっても身に付けておいて損はないスキル。

 

3-2.点眼麻酔か生理食塩水を一滴ほど目に垂らした上で、フルオロセインで染色すると、角膜の傷や異物の判別をしやすくなる。

 

3-3.目に異物が入ってしまった場合、結膜に異物がある場合が多い。結膜を露出させる場合には、綿棒を目蓋の上から当てて軸を作ってあげると、露出させやすくなる。

 

3-4.患者に下を向いてもらうと、結膜を露出させやすくなる。また、自分の目ではないので力加減を遠慮しがちだが、敢えて思い切ってやった方が目蓋をひっくり返しやすい。

 

3-5.離島やへき地だと、特に高齢者に「逆さまつげ」の受診者も多い。処置の方法を学んでおくと役に立つ。

 

3-6.「コンタクトが外れなくなってしまった」と訴える患者が、夜中に来院する時もある。その場合、まず生理食塩水を目に注してあげてから、軽く目の一部分を圧迫してしばらく待つと、目にへばりついたコンタクトが浮いてくるので、そこを取ってあげる。必ず取れる。

 

3-7.「目の裏にコンタクトが入ってしまった」という話はよく耳にするかもしれないが、人体の構造上、目の裏にコンタクトが入ることはない。上眼瞼までで必ず止まっている。

 

 

4.Tips on【眼底検査】

 

4-1.iExaminerのように、iPhoneに接続して利用できる小型の眼底測定装置も便利。見える範囲は、倒像鏡よりは狭く直像鏡よりは広いくらい。

 

4-2.眼科医でも、直像鏡を使用する機会が思いのほか少ない。上述のiExaminerのような検査鏡を利用すると、画像の共有や所見の検討をしやすくなって良い。

 

4-3.眼底画像を診た際、右に視神経があれば、右目の眼底。左に視神経があれば、左目の眼底。どちらの眼底かを判別できることは大事。なお、倒像鏡の場合は、逆に表示されている場合もあるので要注意。

 

4-4.網膜剥離の処置は、一分一秒を争うほどには緊急度は高くない。一週間以内くらいの間に受診してもらっても大丈夫なケースもある。より丁寧に対応するならば、きちんと連絡などの手続きをしてから別の病院を紹介し、一週間以内にそちらを受診するように促してあげると良い。

 

4-5.硝子体出血の場合は、慌てなくても大丈夫。出血が収まるまで様子を見て待ってから、眼底の状況を診察する。

 

 

5.Tips on【眼科エコー】

 

5-1.離島などでエコー検査を行う場合は、「Aモード(目軸長エコー)」よりも「Bモード(体表エコー)」の方が利用する機会は多くなりがち。

 

5-2.Bモードは、網膜剥離の検査に主に活躍。ボールが目に当たったりして、前房に出血等が起こるなどして眼底情報が確認できない場合などには、Bモードで検査することは重要。

 

5-3.ブローブは、視神経が真ん中に来るように意識してあげると、剥離しているかどうかの判別がしやすくなる。

 

 

Q&A:【研修生から寄せられた質問】

 

Q1.船医として勤務することもあるのだが、船上で目に金属片が入ってしまった場合、どのように対処すればよいか。

 

A1.金属片が角膜を傷つけていたり、異物が奥に入り込んでしまったりしている場合は、ちょっと対処が難しい。

 

 

また、角膜にへばりついたり、めり込んでしまったりしている場合、鉄粉や錆までを綺麗に取り除く必要があるため、その状況下では対処が難しそうだと判断したら、眼科に任せてしまうのが良い。

 

「帰港予定日までかなり日数がある」、「すぐに港に引き返すのが難しい」など、どうしてもその場で対処する必要がある場合は、生理食塩水で目を洗浄してから、綿棒で軽く異物部分に触れてみる。

 

それでも取れない場合は、角膜にめり込んでしまっているであろう状態なので、あまり無理に触らない方が良い。

 

 

なお、ずっと金属片を放置したままでいると、それが原因となり別の病気を発症させてしまう可能性があるため、あまり長い期間にわたり放置せざるを得ない場合は、仕事を打ち切らせてでも早めに病院に行かせた方が良いと思われる。

 

 

 

Q2.たまに患者の目を水道水で洗ってしまうことがあるが、やはり「水道水で目を洗う」という行為は避けるべきか。

 

A2.極力避けてほしい。

 

 

生理食塩水がどうしても手に入らない場合など、限定された状況下でのみ行うようにした方が良い。

 

付随して、「アイボン」のような目の洗浄液も、涙液などの目のバランスを崩してしまい、ドライアイを誘発・悪化させるおそれがあるため、眼科医的にはあまりおすすめしない。

 


 

 

石井先生は今回、ファシリテーターを務める山口 卓哉先生とつぶさに連携を取り、「研修生の先生方が日常の診療において対処する症例の範囲」を確認しながら講義を進めてくださいました。

 

また、非常に見やすくまとめられた資料を用意してくださっていたこともあり、講義の内容は、専門的でありながらも研修生の先生方にとってはとても実践的なものとなり、多くの学びを得られる機会となったようでした。

 

 

 

 

 

The Specialist Lecture, an online lecture by various specialist doctors under the theme of his/her specialty, was held last week.

 

The main theme of the lecture was: ophthalmology. Also, Dr. Emi Ishii, who had been a ophthalmology specialist and now has been a Chinese medicine specialist, gave a lecture.

 

 

 

At the begining of the lecture, Dr. Ishii presented the ranking of the ophthalmic procedures that general practitioners should acquire to the registrars and she gave a lesson giving them helpful tips on each topics of the ranking in turn.

 

For your information, the gist of the lecture are as follows:

 

 

 

The Ranking of the Need-to-Know Ophthalmic Procedures 

 

 

 No1.  Measurement of Visual Acuity

 

 No2.  Measurement of Ocular Tension

 

 No3.  Examination with a Slit Lamp

 

 No4.  Measurement of Ocular Fundus

 

 No5.  Ophthalmic Echography

 

 

 

All thanks to her solicitude for them, the lecture consisted of contents that fully answered the actual needs of the registrars who had been endeavoring to be a Rural Generalist.

 

So, it seemed to me that they were able to gain many new insights from Dr. Ishii and successfully update their knowledge through the lecture.

 

 

 

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