『ウェビナー報告日誌 2023「Rural Skills」編 vol.3 ― 精神科 ―』
各々の診療科で活躍される様々なベテラン医師からの実践的な教えを学び、総合診療医としてのレベルアップを図るためのウェビナー『Rural Skills』。
今回は異色の経歴を持つ精神科医の星野 概念先生を講師にお招きし、他の診療科ともまた大きく異なる専門性や特殊性の際立つ「精神科」をテーマに講義をしていただきました。
以下に、今回の講義から内容を一部抜粋してご紹介します。
▷ 「精神科」と「それ以外の科」との違い
・精神科には「明確な客観的指標」が少ない
・医療的なコミュニケーションの道具が、それぞれの脳内にしか存在しない
・持ちうる道具は「知識」「感性」「気持ち」「言葉」
・精神科は、「ハイコンテクストな世界」ともいえる
備考:
精神科の診療においては身体的診察、血液検査、画像検査などで確定診断できる場合が少ないため、それだけにそれら数少ないケースを見逃してはならない。
また、一般的な診療においては、例えば「病理所見」のように目に見える確かなものを起点に患者とのコミュニケーションを図れる一方で、精神科においては「精神病理」のように目に見えない概念のようなものが主軸になる、という点で大きな違いがある。
▷ 精神科医にとっての「道具」
・知識:基本的に専門家として多ければ多いほどよい
・感性:知識に振り回されないために必要と思われる
・気持ち(感情):自分にどんな気持ち・感情が向いているか常に自覚的になる
・言葉:安全や安心を担保する言葉選び、話し方、トーン
備考:
「知識」は間違いなく重要だが、エビデンスや医学的な常識などを優先するあまり、患者の感情や情緒を無視した診療や振る舞いをしてしまいがちになってしまう危険性がある。そういったリスクを回避し、蓄えた知識を患者のために正しく使うための「感性」が重要となる。
精神科の診療においては、しばしば患者から向けられる感情や態度に引っ張られてしまう形で精神科医の心理や精神状態まで変化し、無自覚のうちに患者に対して攻撃的・否定的な言動をとってしまうことがある。そのため、常に「自分に対してどのような感情が向けられているか」「それを受けて自分はどのような感情が湧いているか」などを認識・自覚しながら診療にあたることが肝要。
患者によって“正解”となる言葉遣いや口調などは異なる点に要注意。相手に合わせた「もっとも言葉が伝わる(響く)話し方」を模索する姿勢が大事。
▷ 「治る」とは?
・マーカーなどの客観的指標がない
・医療者が客観的に「治った」と判断を下しにくい
・「治る」の判断は、人によって異なる
└ 主体はあくまでも「その人(患者)」
-症状がとれる
-生活が楽になる
-不自由さが減る
-仕事に就ける
-希望が持てる など様々
▷ 「パーソナル」と「クリニカル」
臨床的(クリニカル)リカバリー
└ 「病気自体の改善」を目指す
パーソナルリカバリー
└ 「希望する人生の実現・到達」を目指す
「疾患があったとしても、その人の希望が叶っていたり、人生が充実していたり
することが重要だ」とするアプローチ。
精神疾患は慢性的な症状となる場合が多いため、とても重要な考え方。
備考:
パーソナルな「治る」を実現させる上で、やはり「患者の話をきく」ということが非常に重要。患者が治療の結果として何を望んでいるかなどを聞き出し、その出てきた「言葉」に対して、医師が「僕はこう思いましたよ。どうですか?」などと「声を重ねていく」こともまた、とても大事。
「離島やへき地に挑戦する準備において精神科は“盲点”だった。実際に働いてみてまず学んでおくべきなのは精神科だったと痛感した」とは、実際に何年も離島へき地医療に従事してきたとあるベテラン医師の弁。
それだけに、人の「こころ」や「感情」といった確かな形や正解のない領域で、単純な「医療」の分野に収まらない様々なアプローチで真っすぐに患者と向き合ってきた星野先生の教えは、研修生たちにも大きな気づきと衝撃を与えていたようでした。
We conducted the Rural Skills, again this month, one of our regular monthly webinars that is aiming at enhancing the registrars’ skills and knowledge as GPs through the lectures by various veteran doctors.
For this session, we invited Dr. Gainen Hoshino who is a psychiatrist with unique backgrounds and are given a special lecture on psychiatry.
As we mentioned above, Dr. Hoshino is not a typical type of psychiatrists that stay and work only in clinics or hospitals.
In fact, he has been aggressively encouraging to and working with some local communities in order to make those places more comfortable and easy to live for people who have psychiatric disorders.
On the other hand, he also has been energetic, interestingly enough, in musical activity and writing action; In other words, his approach to the patients has been very unique and manifold.
“I should have learned psychiatric more proactively and deeply before I began to work as a GP in rural and remote areas. That is what I felt required the most in those communities“, cited as a real experience from a veteran GP in the session.
Actually, psychiatry is often tend to be the blind spot for doctors who would like to work in such rustic areas.
For that reason alone, it seemed that every registrars are profoundly impressed by and interested in various teachings based on Dr. Hoshino’s actual experiences thus far.