『ウェビナー報告日誌 2022「GP Road Map」編 vol.1 ― 検査の適正活用 ―』

 

オーストラリア人のベテランGP、ロナルド・マッコイ先生から経験に裏打ちされた実践的な総合診療の技術や知識について学ぶ『GP Road Map』。

 

今回は、医療とは切っても切り離せない「検査」をテーマに、実際に実施・指示する際に押さえておくべきポイントや陥りがちなミスなどについて、「症例検討クイズ」も交えつつ講義が展開されることとなりました。

 

 

以下に、今回の講義から一部抜粋して内容をご紹介いたします。

 

 


 

 

 

症例検討チャレンジ

 

53歳 事務員 女性(初診)

 

現症:

 

 ・6週間つづく左肩の痛み

 ・着替えの時や腕を高く伸ばすと痛みが悪化

 ・外傷の既往歴なし

 ・レッドフラッグなし

 

 

身体所見: 

 

 ・肩の左側面に圧痛

 ・肩を外転する際に痛み

 ・肥満はなく、血圧は128/77

 ・他の身体所見に問題なし

 

 

その他:

 

 ・既往歴、内服歴、家族歴なし

 ・最後の月経は10ヶ月前

 ・過去5年間、検査はまったく受けていない

 

 

 

▷ Q1.

 

もっとも可能性が高い診断は何ですか?

診断名をひとつだけ挙げてください

 

A1.(クリックで開きます)

回答:

 

棘上筋腱炎

 

 

解説:

 

肩の痛みを引き起こす原因は幾つも考えられるが、「棘上筋腱炎」が最も一般的。

 

診察所での外来診療においては、主訴にまつわる疾患のみならず、レッドフラッグがあるような「致死的な疾患」までも考慮する必要がある。

 

今回のケースのように、レッドフラッグに該当する者がなく、生命を脅かすような疾患もない場合には、「もっとも可能性の高い疾患」を想定し、それに対処していくのが良い。

 

 

 

 

▷ Q2.

 

現時点での検査は必要ですか?

もし必要ならば、適切だと思われる検査を5つまで挙げてください。

 

A2.(クリックで開きます)

回答1:

 

 ・EUC(電解質、尿素窒素、クレアチニン)

 ・脂質

 ・血糖値

 ・マンモグラフィ

 ・便潜血

 

 

解説:

RACGPのレッドブックでは、「50代の無症状の女性」について上記のスクリーニング検査が推奨されている。

 

 

 

回答2:

 

検査の必要なし。

 

 

解説:

NHMRC(National Health and Medical Research Council)のガイドラインによると、「急性の肩の疼痛」のような「筋骨格系疼痛」に関しては、レッドフラッグがない限り検査は推奨されていない。

 

 

 

Q3.

ロキソニン60mg(1日量:180mg)の投与を開始した1週間後、患者が再受診し、上腹部の不快感と吐き気、軽い下痢の症状を訴えています。他の症状は見られず、身体所見は正常です。

 

この時点で、何か必要な検査はありますか?ある場合には、5つまで挙げてください。

 

A3.(クリックで開きます)

回答:

 

NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬)の影響による症状が高いので、まずはNSAIDsの使用を中止する。

中止したことで症状が消失すれば、検査の必要なし。

 

 

解説:

致死的な状況ではないため、すぐに様々な検査をする必要はない。経過観察をしながら、症状がどう変化していくか様子を見た方がよい。

 

なお、「検査をせずに経過をみる」という行為は、特に大きな病院で働いてきた意志にとっては非常に難しいことと思われるが、診療所では「時間」というツールを用い、ゆっくりと何が起きているかを観察しながら患者との信頼関係を構築し、再診してもらえるようにすることが大事。

 

その際には、とにかく様々な「ガイドライン」を活用することも重要となる。

 

 

 

 

 

適性検査のための戦略 ①

 

不確実性と共に生きる」ことを学ぶ

 

 

 ・外来では、診断のつかない、発症して間もない患者が多い

 

 ・重大だが緊急性の低い患者も多い

 

 ・緊急性の高い状態でなければ、検査は待つことが可能

 

 ・診療の最後に確定診断がつかない患者は多い

 

 ・診断ツールとして「時間」を活用する

  例:経過観察、治療法としての時間(時間ぐすり)、安全策をとる

 

 

 

備考:

 

適正な検査を心がける上では、「不確実性と共に生きるスキル」を身に付ける必要がある。

 

診断が明確でない場合には、例えば1週間語に再診してもらうことで診断が明確になることも珍しくない。必要に応じて、「診断に時間をかける」という選択肢もとれるようになることが重要。

 

 

 

適性検査のための戦略 ②

 

ガイドラインや指針を活用する

 

 

 ・検査科や他の医師など、自分以外の人間に意見を求める

 

 ・患者を安心させるため「だけ」に検査をすべきではない
 (重篤な疾患である可能性が低い時には、特に)

 

 ・検査だけでは、患者を安心させることはできない

 

 

 

備考:

 

患者を安心させられるのは、医師としての「知識」や「技術」であり、「検査」そのものでない。安易に検査を実施したところで、患者を安心させるどころか、過剰検査のリスクに晒してしまうことになってしまう。

 

重要なことは、「最も可能性の高い疾患は何か」を常に考える習慣を身に付けること。その推測を確認するために、適正な検査を実施したり、経過観察という手段を用いたりするべき。

 

 

 

検査の振り返りと監査

 

クリニカル・オーディットの実施

 

「クリニカル・オーディット」とは、自分自身の臨床を振り返り確認を行う作業のこと。

 

例えば、過去に診た「腰痛」の患者のカルテをすべて抜き出し、実際に自身が実施した診療の内容が、「腰痛の診療ガイドライン」と照らし合わせて、どのくらい整合性があるかを確認するような行為のこと。

 

 

信頼できるガイドラインを用い、定期的にクリニカル・オーディットを実施することで、より適切な検査をより的確に実施・指示することが可能になっていく。

 

 

 


 

 

都心部の大きな病院と離島へき地の診療所とでは、設備の充実度やよく見られる症例から、「適切」とされる診療や医師と患者との関係性に至るまで、様々な要素が大きく異なります。

 

そういった環境や条件の違いを踏まえた上で、どう適確に「適正な検査」を実施すればいいか。まだ研修が始まったばかりで、環境の変化に適応している最中にある研修生の先生方にとって、実践的な指針となるような講義となりました。

 

 

 

 

 

 

 

The GP Road Map, a series of online lectures focusing obtaining practical knowledge and skills of general practice in a structured way with Dr. Ronald McCoy who is an Australian veteran GP, has been conducted the other day.

 

The theme of the lecture was “Rational use of testing”. This time, Dr. McCoy talked about a lot of tips on the way to conduct appropriate tests and traps that often lead to the risks of over testing.

 

 

Not once or twice, he emphasized the importance of rational and proactive use of practice guidelines in the session.

 

In the rural and remote areas, undifferentiated and early but not urgent presentations are very common in general practice. So, it is really important skills for doctors in those context to utilize “time” as a cure.

 

Any trustworthy guidelines would be great helps in not only obviating the risks of over testing but also properly identifying the patients’ condition eventually, he stressed.

 

 

On the other hand, Dr. McCoy pointed that using “time” as a cure, such as taking a wait-and-see-approach, tends to be difficult for doctors who had been working at hospital in urban areas to conduct.

 

As many of the registrars are from urban hospitals, he also shared some practical recipes for learning how to use “time” properly in their daily clinical practice. Again this time, it seemed that every registrars successfully gained a good “guideline” through the session.

 

 

 

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