『ウェビナー報告日誌 2020「Rural Skills」編 vol.2 ― 整形外科と腰痛 ―』

 

離島やへき地において重要度の高い手技や知識について、各分野の実力と経験のある先生方から実践的な講義を受ける『Rural Skills』。

 

今回は、上五島病院で15年以上にわたって整形外科医として活躍され、医療的な専門知識は勿論、離島における医療の現実にも詳しい一宮 邦訓先生を講師にお招きし、「整形外科」をテーマに講義をしていただきました。

 

 

 

 

今回の講義においては、整形外科として非常に一般的な症状であり、離島でも症例数が多い一方で、ちょっとした「見逃し」や「見間違え」が重篤な疾患にも発展しかねない「腰痛」に特に焦点を当てられた一宮先生。

 

今回も、講義の内容について一部抜粋して以下にご紹介したいと思います。

 

 


 

 

 

「腰痛」の定義

 

 

「体幹後面に存在し、第12肋骨と殿溝下端の間にある、少なくとも一日以上持続する痛み。片側、または両側の下肢に放散する痛みを伴う場合も伴わない場合もある」

 

 

 

備考:

 

【 日本の有訴者率における「腰痛」の占める割合 】

 

 ・男性 : 第1位

 ・女性 : 第2位

 

※ちなみに、男性における「第1位」および女性の「第2位」は、「肩こり」。

 

 

 

 

 

腰痛の分類について

 

 

【有症期間】

 

 ・急性腰痛:発症から4週間未満のもの

 

 ・亜急性腰痛:発症から4週間以上3か月未満のもの

 

 ・慢性腰痛:3ヶ月以上継続するもの

 

 

【原因別】

 

 ・脊椎由来

 

 ・神経由来

 

 ・内臓由来

 

 ・血管由来

 

 ・心因性

 

 ・その他

 

 

【Red flags】

 

 ・悪性腫瘍、感染、骨折、重篤な神経症状を伴う腰椎疾患

 

 

 

 

 

Red flagsについて

 

 

ガイドラインでは、以下9つの項目が上げられている。

 

 

 1.発症年齢

 

   ⇒ 若年者(22歳未満)や中高年(55歳より上)の腰痛

 

 

 2.時間や活動性に関係のない腰痛

 

   ⇒「動いた時に痛い」というのは、むしろ安心できる所見だと言える

 

 

 3.胸部痛

 

 

 

 4.癌、ステロイド治療、HIV感染の既往

 

   ⇒ 癌による転位性の脊椎腫瘍による痛み

   ⇒ ステロイド治療の影響による骨粗鬆症からの圧迫骨折

 

 

 5.栄養不良

 

 

 

 6.体重減少

 

 

 

 7.広範囲に及ぶ神経症状

 

   ⇒ 整形外科的には、「早期に手術しないとまずいぞ」という症状の一つ

 

 

 8.構築性脊椎障害(変形)

 

   ⇒ 側弯症、円背、結核性脊椎円の後遺症による亀背など

 

 

 9.発熱

 

   ⇒ 感染や悪性腫瘍などを考えなくてはならない所見

 

 

 

 

 

命を脅かす怖い腰痛「FACET」

 

 

 F racture - 骨折

 A orta - 大動脈解離・瘤破裂

 C ompression - 脊髄圧迫症候群

 E pidural abcess - 膿瘍・感染

 T umor - 腫瘍

 

 

備考:

 

・重大な脊椎疾患を有する腰痛患者の割合は、全体の「5%以内」

・facetとは「椎間関節」のこと。特に危険度の高い腰痛を5分類して鑑別する。

 

 

 

 

 

山口県による「腰痛study」

 

 

【 調査内容の概要 】

 

・山口県内の整形外科を受診した323名(2015年4月から5月)※最終的に320名

 

・男性160名、女性163名(平均年齢55.7歳)

 

・初診時に問診、身体診察、アンケート(VAS・JOQBPEQ・JOAスコア・ST-8)を実施

 

・局所麻酔、ブロック注射によって確定診断を行い、再診時に効果判定

 

 

 

【 調査結果 】

 

 ⇒「320名」中「251名(78.4%)」が鑑別可能であった

 

 

 

【 内訳 】

 

腰痛の鑑別診断 人数
腰部筋膜性 56名
腰部椎間関節性 68名
腰椎椎間板性 40名
仙腸関節性 18名
腰椎圧迫骨折 10名
脊椎腫瘍 0名
腰椎椎間板ヘルニア 22名
感染症 1名
腰部脊椎管狭窄症 35名
強直性脊椎炎 0名
内臓疾患 0名
社会心理的要因 1名
その他 69名

 

 

 

 

 

日常診療における優先作業

 

 

理想としては、患者一人一人の訴える症状一つ一つに時間をかけて鑑別したいところだが、日常の診療の中でそれを厳密に実践するのは、現実的に難しい。

 

そこで、まずは優先的に以下の鑑別のふるいにかける。

 

 

 

 1.Red flagsの除外

 

 

 2.下肢症状(しびれ)の鑑別

 

 

 

まずは、Red flags(命を脅かす、もしくは手術治療が必要な疾患)の可能性から優先的に検討していくと、結構な確率で引っかかる

 

 

 

 

【項目別よくある例】

 

 

発症年齢

 

 ・ 22歳未満:腰椎分離症(疲労骨折)、椎間板ヘルニア

 ・55歳より上:癌

 

 

癌、ステロイド治療、HIV感染の既往

 

 ・ 癌:転移性脊椎腫瘍

 ・ステロイド:骨粗鬆症、脊椎圧迫治療

 ・ 感染

 

 

▷ 神経症状

 

 ・麻痺:手術適応がある場合が多い

 ・高齢者の「脚のしびれ」

 

 

 

備考:

 

・脚の痺れの場合、神経由来の可能性を真っ先に疑いがちだが、「血流不全によって痺れを感じている」場合も結構な割合であるため、必ず血流の有無を確認すること。

 

 

 

 

 

「シビれ」と「痺れ」

 

【「麻痺」の見逃しに要注意  】

 

 

高齢者は、身体の一部が麻痺して動かなくなっている状態についても「しびれている」と表現(訴える)ことが多いため、本当に「しびれている」だけなのか「麻痺してしまっている」のかについてはしっかりと鑑別し、後々になって重大な後遺症となってしまうおそれの大きい「麻痺」を見逃さないようにすることが大事。

 

一言に「しびれ」と言うが、脳内で「シビれ(しびれている)」「痺れ(麻痺している)」という表現を意識しながら診察をすることで、「麻痺」の見逃しを防ぎやすくなる。

 

 

 

 

 

 

実際の診察手順

 

 

  まずは入室時の歩容を確認

 

      

 

  「どこが痛いですか?」と痛いところに自分の手を当ててもらう

 

      

 

  そこに触れた上で、棘突起を頸椎までなぞる(側湾の有無)

 

      

 

  上から軽く背骨を叩いて叩打痛の有無を確認。CVAも併せて確認

 

      

 

  腰部の圧痛点の有無を確認

 

      

 

  下肢症状の有無を聞く。あれば、そこを触って知覚低下の有無を確認

 

      

 

  座ったままで膝を伸ばす(SLR testの代わり)。その際に後脛骨動脈を触れる

 

      

 

  そのまま足首を持って、股関節を内外旋して痛みの有無を聞く

 

      

 

  靴の上に足を乗せて貰い、前脛骨筋・長母趾伸筋の筋力を評価(つま先をあげる)

 

   ※この際、足背動脈を確認する。

   ※必要に応じて腸腰筋・大腿四頭筋・ハムストリングスの筋力の評価

   (膝を持ち上げる、膝を伸ばす、膝を曲げる)

 

      

 

  立位で腰椎回旋時の痛みの有無を確認(椎間関節・腰椎分離症の評価)

 

      

 

  回旋させながら腰を少しそらせ、下肢症状の有無を確認(Kemp test

 

      

 

  そのままレントゲンへ(この時点で診察上、考えられる原因について軽く言及する)

 

      

 

  診察室から出て行くときの歩容を確認。

 

 

 

備考:

 

入室時と退出時で歩き方が変わっていることも多いので、見逃さず確認すること。

 

患者も決して嘘をついたりしている訳ではないが、診察を受けたりなどして安心したりすることで、歩き方が変化する人も多い。診察前後の歩容をどちらも確認することが大事。

 

 

 

 

 


 

ここでは紹介しきれませんでしたが、一宮先生は今回、実際に何枚ものレントゲン写真を用いて腰椎X線写真の診方を実演したり、肩関節前方脱臼の整復やシーネを用いた外固定の方法などについても分かりやすく解説したりもしてくださいました。

 

講義の最後に設けられた質疑応答においても、研修生からの質問に対して優しく丁寧に指導してくださり、研修生たちにとっても多くの学びを得られる時間となったようでした。

 

 

 

 

 

 

 

The Rural Skills, one of our regular monthly webinar that focuses on enhancing the procedural skills highly required in rural and remote areas, was conducted under the theme of “orthopedics” last night.

 

For this time, we invited Dr. Kuninori Ichinomiya, who had been working at Kamigoto island as an orthopedist for more than 15 years, as a speaker and he gave a very useful and practical lecture to the registrars.

 

 

Just for your information, the gist of the lecture are as follows:

 

 

 

  1.Tips on diagnosis of low back pain

 

  2.Tips on reduction of anterior dislocation of the shoulder

 

  3.Tips on external fixation

 

 

 

Happily enough, Dr. Ichinomiya generously shared a lot of valuable tips on diagnosis and treatment of orthopedic cases that is really common even in remote islands with the registrars in the lecture,

 

So, it seemed that they finally were able to absorb the “fruits” of Dr. Ichimomiya’s long-standing efforts.

 

 

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