『ウェビナー報告日誌 2022「Registrar’s Lecture」編 vol.2 ― プライマリケア ―』

 

日々の研修や診療の中で学んだことや苦労したこと、気づいたことや調べたことなど、研修生たち自身が等身大で経験したことをお互いに共有し合うためのウェビナー『Registrar’s Lecture』。

 

それぞれ大井田病院と上五島病院で研修されている木田先生と松﨑先生が今回の担当を務め、「プライマリケア」という大テーマの下、それぞれ異なる視点と切り口から発表が行われることとなりました。

 

 

 

 

 

以下に、今回の講義から内容を一部抜粋してご紹介します。

 

 


 

 

認知バイアス

 

現在バイアス 将来より現在の利益が大事
サンクコストバイアス もったいない精神
正常性バイアス 自分だけは大丈夫
確証バイアス 都合のいい情報のみ信じる
内集団バイアス 身内びいき
後知恵バイアス やっぱりそうなったか

 

 

 

人間は知らず知らずのうちに、様々なバイアスをかけてしまっており、それは患者も同じこと。

 

認知バイアスを正しく理解、認識することで、外来診療での患者対応や指導をよりよいものとすることも可能になると考えられる。

 

 

 

認知バイアス実践クイズ ①

 

Q1.どちらのくじを引きますか?

 

 

  A.確率80%で4万円が当たる

 

  B。確率100%で3万円が当たる

 

 

 

Q2.どちらのくじを引きますか?

 

 

  C.確率20%で4万円が当たる

 

  D.確率25%で3万円が当たる

 

 

備考:

 

報告では、Q1は「B」、Q2は「C」を選ぶ人が多いとのこと。

 

主な理由としては、認知上における主観的確率と客観的確率の乖離が大きいため。人は、90%や80%という高い確度を低く評価しがちな一方で、10%や20%という低い確度を高く評価しがち、とされている。

 

 

これを応用すれば、例えば「1%」の確率で副作用が生じる薬を処方する場合などには、「100人に1人は生じます」というよりも、「100人に99人には生じません」と患者に伝えた方が効果的となり得る。

 

 

 

認知バイアス実践クイズ ②

 

Q1.どちらのゲームをしますか?

 

 

  A.表が出たら2万円を貰い、裏が出たら何もなし

 

  B。確実に1万円を貰う

 

 

 

Q2.どちらのゲームをしますか?

 

 

  A.表が出たら2万円を支払い、裏が出たら何もなし

 

  B。確実に1万円を支払う

 

 

Q3.どちらを選びますか?

 

 

あなたの月収は50万円です

 

 

  A.表が出たら今月は40万円に、裏が出たらそのまま

 

  B。確実に今月は45万円に

 

 

 

備考:

 

報告では、Q3の場合には「B」を選ぶ人の方が多い、とのこと。リスク回避という観点から判断すれば、「B」と「D」をそれぞれ選ぶのが合理的だと言える。

 

ただし、Q3で「B」を選んだ人でも、Q4では「C」を選ぶ人の方が多かったとのこと。これは、一般的に人は「損失」を負う可能性がある場合には、リスクを負ってでも損失を避けようとする傾向が強いため、とされている。

 

 

一方、Q5のように「損失」ではなく「利得」を問う場面となると、「B」を選択する、つまり確実性をとる人の方が多くなる、とのこと。

 

 

上記のような認知バイアスについて、行動経済学では「プロスペクト理論」と呼ばれており、そこには「現状維持バイアス」と呼ばれるバイアスも含まれている。

 

 

様々な認知バイアス

 

 

現状維持バイアス

 

人は「現在の自分の位置」を参照点として見積もっており、その参照点より低い位置にいると認知すると「損失」と感じてしまい、それを回避しようとする傾向がある。

 

同様に、「今の自分から何かを変更すること」を「損失」と捉えてしまい、損失回避の観点から「いまのままで維持したい」と考えてしまうバイアスのことを「現状維持バイアス」と呼ぶ。

 

 

 

現在バイアス

 

 

パターン1:直近の場合

 

 

  A.今、「1万円」を貰う

 

  B.1週間後に「1万100円」を貰う

 

 

 

パターン2:もっと先の話の場合

 

 

  C.1年後に「1万円」を貰う

 

  D.1年と1週間後に「1万100円」を貰う

 

 

パターン1の場合では「A」を選ぶ人が多く、パターン2の場合では「D」を選ぶ人が多くなる、とされている。

 

これは、直近の話になると人はせっかちになり、「利得」を急いでしまう傾向がある一方で、もっと長いスパンでの話になると、合理的な利得の判断を下せる傾向がある、というもの。

 

 

 

サンクコストバイアス

 

サンクコスト=「過去に支払った費用や努力のうち戻ってこないもの」

 

「過去に支払ったコスト」と「これから取るべき行動」とは本質的に無関係であるはずなのに、行動決定の際に「これまで頑張ってきたから」とか「いままでの費用(努力)がもったいない」などの感情が働いてしまうバイアスのこと。

 

 

 

とある患者の実例

 

 

「検査はしない」

 

 ⇒ 損失回避

 

 

「自分のことは自分が一番分かっている」

 

 ⇒ 確証バイアス

 

 

「その時は、その時」

 

 ⇒ 現在バイアス

 

 

「今まで元気だった(から大丈夫)」

 

 ⇒ 正常性バイアス

 

 

 

備考:

 

その時、その患者にどのようなバイアスが働いているかを理解できたとしても、「人の行動を変えることは容易ではない」という前提は何も変わらない。

 

ただし、例えば、

 

 

損失回避・現在バイアス

 

 ⇒ 時間をかけてその患者の中の「参照点」を変えてあげる

 

 

確証バイアス

 

 ⇒ 周囲の人間による説得が有効、とされている

 

 

正常性バイアス

 

 ⇒ 患者に「現在の自分の状態を自ら疑ってもらう」よう働きかける

 

 

など、バイアスの種類に応じて、より適切な対応を選択することが可能になるため、積極的に活用する価値はあると考えられる。

 

 

 

 


 

設定された大テーマが「プライマリケア」だったということもあり、木田先生も松﨑先生もともに「人(患者)との関わり合い」に焦点の当てられた発表内容となった今回。

 

人と人との距離がより近い「へき地・離島」だからこそ、一人で診る範囲の広い「総合診療」だからこそ、周囲との協力が不可欠な「地域医療」だからこその苦労と葛藤が、先生方の大きな糧となっているようでした。

 

 

 

 

 

 

 

The Registrar’s Lecture, the webinars for RGPJ registrars in order to share their experiences or anything they had learned in their days of training at hospital with each other, was successfully conducted, the other day.

 

Actually, Dr. Kensuke Kida and Dr. Kyoko Matsuzaki were the presenters and the preselected theme was primary care. They had the same major theme, but eventually they gave presentations focusing on other perspectives, respectively.

 

 

For example, Dr. Kida focused on the definition of primary care in the session. Then, he introduced a case that he had faced with difficulty in terms of appropriate communication with a patient  and he conducted a case study used it as a base.

 

On the other hand, Dr. Matsuzaki set the minor theme as cognitive biases; she had placed importance on communication with patients in primary care, so she sought to enhance the quality of the communication by analyzing/understanding the cognitive biases potentially in any patients.

 

 

Interestingly enough, although they started from different place at the beginning, they eventually reached the same goal: the importance of good communication with others (patients, their family, any healthcare staffs around them, and so on).

 

 

 

 

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