『ウェビナー報告日誌 2021「GP Road Map」編 vol.1 ― 検査の適正活用 ―』
オーストラリアのへき地で長年にわたり総合診療の最前線で闘ってきた “歴戦” のベテランGP、ロナルド・マッコイ先生から、毎回異なる様々なテーマに沿って、体系的に「総合診療の原則」について教えていただく『GP Road Map』。
そんな『GP Road Map』も今年で数えること四年目となり、いまやすっかり『Rural Generalist Program Japan(RGPJ)』における「看板ウェビナー」の一つとなりましたが、これまでも期を重ねるごとに少しずつ反省と改善を図ってまいりました。
そして迎えた今期、ウェビナーをさらに充実したものとするための新たな試みとして、NTT東日本関東病院の国際診療科で活躍されている坂間 玲子先生に、ロナルド先生の「サポート役」兼「サブ講師」としてご参加いただけることとなりました。
ロナルド先生と坂間先生のタッグにより大幅なパワーアップを果たした今回の講義では、『検査の適正活用』についてお話いただきくこととなりましたが、以下に、講義から一部抜粋してご紹介させていただきます。
▷ 罹患率と偽陽性
・へき地においては、外来診療に来る患者の罹患率が低いことはよくある
・罹患率が低い時、偽陽性はより多くなる
・不必要な精査は、偽陽性を引き起こす
・検査という行為自体が、患者に不安を与える
備考:
患者数の多い病院などでは、実際に病気のある方も多いから検査自体に有効性があるが、離島やへき地などの外来では、そもそも病気自体が少なく、そういった状態で検査をすることによって、逆に偽陽性が増えてしまう。
そのため、過剰検査にならないように気を付けなくてはならない。
・見逃しをすると訴えられるのではという恐怖(しかし過剰診断はダメ!)
・医師の個人的な性格(例:不確実性に耐えられない性格)
・「何事も多いほどよし」とする文化的信念
・リスクを考慮せず、「早期発見は常に良い」とする信念
・小さな “異常” も検知できてしまうだけのテクノロジー
・より多くの検査や治療が収益をもたらすという医療の仕組み
・ガイドラインの不使用
・疾患の定義の拡大や、常に変わるガイドラインの内容との不一致
・称号的あるいは専門的な既得権益
備考:
▷ 過剰検査に伴うリスク
・患者への害 ― X線、放射線
・無症候で無害な状態にまで診断をつけてしまうリスク
・偶発腫瘤 ― 甲状腺、腎臓
・過剰検査 ― 不確実性を解決するため(の不安感から)
・偽陽性
⇒ とにかく患者に「害」を与えないことが、何よりも重要!
▷ 総合的なアプローチを用いる
・患者中心のコミュニケーション
・不確実性を受け入れる
・ガイドラインや指針を使う
・安全な診断戦略
・検査の理由を明らかにする
・並行検査より連続検査を行う
・実施検査の振り返りと監査
・より少ない検査で、患者満足度とヘルスアウトカム(医療効果)の向上を導く
・患者は「なぜ診断のための検査をするか」について説明してくれると期待している
・患者のICE(解釈・心配・期待)に取り組まなければならない
(ICE = Ideas / Concerns / Expectations)
・それぞれの検査について、患者に適切な説明ができるようにする
▷ 自分自身に5つの質問を投げかける
1.可能性の高い診断は?
2.見逃してはならない疾患は何か?
3.見逃されやすい状況(落とし穴)はないか?
4.症状が表面に出ていない可能性は?(糖尿病患者の胸痛など)
5.患者は何かを伝えようとしていないか?
▷ 自分自身に以下の質問を問いかける
・この検査を指示したのはなぜ?
・結果次第で治療方針を変更させるか?
・この検査を指示する・指示しないことのリスクは何か?
・過剰診断のリスクはあるか?
・結果が陽性結果の可能性はどれくらいあるか?
・暫定診断の有病率は?
・暫定診断の有病率は?
・検査の決断に影響を与えた要因は他にもあるか?
・この所見には、検査のガイドライン(指針)があるか?
・特定の問題点を確かめるためだけに、検査は行われるべきである
・可能性の低い疾患を「ただ確認する」ための検査はしない
・連続検査を行うことで、次なる検査を行う前に検査前確率を上げることができる
・疾患別検査セットの無意味な使用を避ける
(例:多発関節炎スクリーニングやまとめて行う検査(batch testing))
備考:
一度に全部の検査をしようと思わず、順序立てて一つ一つ検査を行う。「並列性」ではなく「連続性」をもって検査していくことが、過剰検査を防ぐ上でも、診断の精度を上げる上でも大事。
適正な検査方法について学習するのに役に立つWebサイト。
無償で公開されている各種「診療ガイドライン」を検索・閲覧できるWebサイト。
▷『ジェネラリストのための内科診断リファレンス: エビデンスに基づく究極の診断学をめざして』上田 剛士, 医学書院(2014)
坂間先生は、米国での在住歴もあり、米国医師免許における「USMLE Step 3」まで取得されておられるため、英語のみならず「GP」という文化や仕組みにも精通されていらっしゃいます。
このウェビナーでは、主にロナルド先生と研修生たちとを繋ぐ “橋渡し” としての役割を担っていらっしゃいます。
今回の講義においても、適宜ロナルド先生のお話の難しい部分などを日本語で補足し、研修生たちからの意見や質問を英語でロナルド先生に還元し、講義の中にとても良い “循環” を作ってくださいました。
そのおかげもあり、毎回講義の最後に設けられる質疑応答の時間はいつも以上に活発に意見交換が繰り広げられ、当初の予定よりも終了時間が押してしまうほどの盛り上がりを見せることとなり、和気あいあいとした雰囲気の中で充実感のある時間となりました。
The GP Road Map, a webinar for learning about the principles of general practice by Dr. Ronald McCoy who is an Australian veteran rural GP, was held online under the theme of “rational use of testing”, the other day.
In the lecture, the registrars deepened their knowledge about the problems and risks of overtesting firstly. And then, they also learned about how they could avoid overtesting in their examinations.
By the way, until the previous term, the GP Road Map had been conducted only by Dr. McCoy. On the other hand, from this term, we have invited Dr. Reiko Sakama as an assistant of the webinar in order to enhance the quality of the online sessions through encouraging mutual understanding between Dr. McCoy and registrars.
Actually, Dr. Sakama had been in the US and passed the USMLE step 3 there, so she is not only fluent in English so much, but also familiar with the GPs both as a culture and system.
Fortunately enough, it seemed that she had already been able to create a good “circulation” between Dr. McCoy and registrars, although this was the 2nd time she participated in the webinar; she timely translated or supplemented the gist of Dr. McCoy’s arguments in Japanese for registrars and vice versa.
Thanks to her dedicated and appropriate supports, mutual understanding among them seemed to be much deepened throughout the session, and finally the lecture ended with gratified expressions on everyone’s faces.