徳之島でつむぐー宮上病院研修記(「外来診療篇」)
2017年4月スタートの「日本版離島へき地プログラム
(Rural Generalist Program Japan)」の1期生6名のうち、
2名が徳之島の宮上病院で1年間の離島研修を受けます。
研修生サポートの事前予習のために、ゲネプロのアシスタントであり、
この記事の筆者でもある月順(ゲツジュン)が宮上病院で
1週間の研修を受けてまいりました。
徳之島(とくのしま)は、南西諸島の奄美群島に属する離島の1つであり、
島内には鹿児島県大島郡徳之島町、伊仙町、天城町の3町があります。
面積は約247.77㎢、人口約23,000人で、全国1位の出生率を誇る
「子宝の島」と呼ばれています。
外来診療、在宅診療、リハビリ、医療事務の流れ等を
1週間にわたり研修させていただきました。
今回は第1弾として「外来診療篇」をお届けします。
宮上病院は内科、外科、泌尿器科、形成外科の4つの診療科を開設しており、
特別診療として整形外科、耳鼻咽喉科、婦人科、小児科、皮膚科など
8つの診療科に非常勤医師が月2~4日間応援診療に来ています。
初日に喘息で診療を受けた伊仙町馬根(ばね)集落に住むおばあさんが連発した
「なるべく」という言葉が記憶に残っています。
「先生、喘息の薬なるべく出してください。一人暮らしなもんで、タクシーで通うのも
往復2000円かかるし、うちからバス亭まで25分歩くからとても間に合わんしね。
なるべく出してください。」
医療現場から行政に働きかけるためにはどうすればよいか?
島のどこに住んでいても、ひとりも取り残されることなく、
みんなが良い医療を受けられる地域づくりが必要だと、
離島の医療現場にいる数日間だけでも強く感じます。
背中にできた粉瘤(皮下にできる弾力性のある袋状のしこり。
皮膚表面が半球状に盛り上がるほか、顔、頭、胸、背中、足底などにできる。)
の排膿処置は2件ありました。
都会の病院では最初から皮膚科の専門医が診るケースが多いですが、
ここ離島の皮膚科は非常勤医師が月2日の頻度で来ている状況。
「皮膚科の先生がいるのは次の月曜なのでその時にまた来てください」と言うわけには
いきません。専門医に渡すべきと判断した場合でも、適切な引き継ぎのために、
また患者さんの痛みを軽減するために初期診療が必要なケースが多いのです。
今回は切開排膿と消毒処置で済みましたが、
「予期せぬ症例にコテンパンにやられながらも、真正面から向き合い、
足腰のしっかりとした医師へと成長できる『メジャーリーグ』は離島へき地なんだ」と
いつも口にする齋藤の言葉が現実と結びついた気がしました。
ほかの病院でもらった薬が効かないから、と言って宮上病院に来た
91歳の一人暮らしのおばあさんを前に齋藤は悩み始めました。
前回の処方の効果がなければ次の手を考えるべきだが、
その判断がつく前に患者さんが病院を転々とすると、違う病院で同じ薬を
出される可能性があるほか、もし患者さんが同時に両方の薬を飲んでしまった場合、
命の危険に晒されてしまうことさえあるからです。
おばあさんがまさにこのケースでした。胸写のCTR(cardiothoracic ratio)
(心胸郭比:CTRが50%を超えていると心拡大の可能性があると考える)は
53.7%と、心不全の可能性も。
娘は鹿児島市内在住、食事は宅配や近隣から届けてもらっているが、
歩くことさえやっとのこと。
最近は喉の痛みで寝られない日々を過ごしているというおばあさん―
「できるなら入院させてもらいたいんです」と。
入院できる条件ではないが、なんらかの看護が切実に必要です。
そこで訪問看護を専門とする看護師さんに連携し、役場で要介護認定を
申請する方法を案内しました。
毎日たくさんの患者さんが来ます。
鎌で切った指の縫合、耕運機に打たれた胸の治療、イヌにかまれた傷の処置等、
島の生活を背景とした様々な診療を通して、少しずつ島人との共通話題を見つけていきます。
サトウキビ、ジャガイモ、闘牛、そして焼酎。。。!
ちなみに地元の方々と島唄を歌いながら飲んだ黒糖焼酎は
最高にうまかったです!
「先生に会っただけで元気になります。」と患者さんは医者に感謝し、
その気持ちに応えようと医者は一生懸命になる。
来年4月から島入りする研修生たちがどのようなストーリーを
紡いでいくか楽しみにしながら、その歩みをゲネプロとして
一生懸命支えていきたいと思っています。