RMEHub #01. プログラムの足跡 ~1-5期生の概要からみえるもの~
ゲネプロでは、Rural Generalist Program Japan(RGPJ)を立ち上げた2年目から、プログラム評価を導入しています。「教育プログラムとしてRGPJがどのような効果を産み、どのような課題があるのか?」「課題をどのように改善していけばよいのか?」を明らかにしていく視点を持ち、よりよいプログラムにしていきたいと思っているためです。
公平性・独立性を担保するために、3年前からウェスタン・ミシガン大学の学際的評価学(PhD.)に所属する津崎たから氏を外部評価者として迎え、研修生へのインタビューやアンケートを実施しています。いわゆる「混合法(Mixed Methods)」という社会科学の手法を用いており、個人情報の保護を担保した上で、データの分析や解釈を一緒に行い、意見交換をしています。
この度、1-5期生の研修生(修了生・現役生)の概要データをまとめましたので、ご紹介いたします。
1. プログラムへの参加者は、のべ43名
2. 91%がプログラムを修了(※4期生までのデータ)
3. 全国8か所の研修先病院
4. 卒後8年目にプログラムに参加(平均値)し、卒後5年目以内(専門医研修以前)にプログラムに参加した研修生は 28%
5. 研修開始時の平均年齢は34歳
6. リテンション(定着率):修了後へき地・離島医療に残った研修生(2年以上プログラム継続、研修先病院に就職)が16%
7. 19%がスペシャリストからジェネラリストへキャリアチェンジ
8. 81%がジェネラリストからルーラルジェネラリストへ
9. プログラムに入る前に取得していた専門医は多岐にわたる(総合内科、家庭医、救急、外科、小児科、麻酔科、産婦人科、整形外科)
今回の1-5期生の概要も、医学・医療と評価の研究者の視点を組み合わせてみると、分析が深まったり、新たな視点で現象が理解できたりと、面白い発見がありました。今回は、この1-5期生研修生データについて、対話をしながらデータを読み解いてみようと思います。
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津崎たから:このインフォグラフィックのデータの中で、一番印象深いものはどれでしょうか?
齋藤学:研修生43名という数字ですね!まだ立ち上がったばかりの研修プログラムに参加の決意をして下さり、飛び込んでくれたレジストラの皆さんには、感謝の気持ちでいっぱいです。それまでいた環境を手放すような大きな決断だったり、今後のキャリアチェンジのために勝負に出たり、一歩を踏み出した背景には、43人それぞれのストーリーがあったと思います。
津崎:プログラム修了率は徐々に伸びてきていますよね。
齋藤:研修プログラムを提供するゲネプロ側、研修病院側の両方が、経験を積んできていることの実績の現れだと思います。1年目、2年目はすべてが初めてのことばかりで、試行錯誤の連続でした。研修生、特にプログラム初期の研修生は、想定外のことに多く直面する中で、大きく成長していき、今では卒業生によるサポートによってプログラムが安定してきた印象です。経験から学び、改善していこうという仕組みができつつあると感じます。
津崎:「リテンション=定着率」については、これをどう定義するのかで何度かやり取りをしましたね。
齋藤:海外の文献を読むと、必ずと言っていいほど「リテンション」は「リクルート」とセットで議論されています。いくらリクルートに成功しても、離島・へき地で働く医師が残り続ける体制(リテンション)を築かれなければ、持続可能なへき地医療体制はできません。これには、教育、制度、報酬など様々な要素があります。
文献で言われている「リテンション」をRGPJのプログラムの目的や日本のルーラル・コンテクスト(地域の実情)に照らし合わせると、どう定義するのかを今回考えました。
例えば、リテンション(定着率)は、RGPJ1-5期生のデータでは、16%となっています。これは、RGPJを2年以上継続した場合(通常1年)、もしくはプログラム修了後も、引き続き同じ病院で勤務を継続することになった医師の合計数から算出しています。プログラム内の成果という、限定的な範囲内での数字です。
津崎:そうですね。しかし、ゲネプロが目指すものは、プログラム内の達成度や成果を超えて、「日本の離島・へき地で、この研修プログラムが、他の地域でも機能する、効果的なプログラムになり得るのか?」という広い観点に立って企画・運営されていますよね?単に、プログラムに何人残ったか?というような近視眼的な視点ではないように感じます。
齋藤:「リテンション(定着率)=プログラムの有無に拘わらず離島・へき地にて診療継続している」と定義しなおして、オーストラリアで使われている、クリニカル・サービス・ケイパビリティ・フレームワーク(CSCF:地域の規模により医療サービスを定めたフレームワーク)を日本のコンテクスト(実情)に当てはめて改変して考える中で、面白い発見がありました。
レベル1 看護師のみで運営されている(医師は非常勤)小さな離島やへき地の診療所
レベル2 離島およびへき地における医師がGPのみの無床診療所
レベル3 離島およびへき地における総合診療医だけが務める有床診療所(19床以上)
レベル4 地方の総合病院、各科専門医も常勤で働く(おおよそ200床以下)
レベル5 都市部の総合病院(おおよそ200〜500床)
レベル6 大都市(含む県庁所在地)の大学病院、総合病院(500床以上)
レベル2、3、4(青字)が、RGPJのイメージする離島・へき地のレベルです。種々の理由でプログラムを途中で離脱せざるを得なかった研修生もいますが、都市部に戻ることなく、今でもこのレベル2−4の中で診療を続けている人の割合が高いことも喜びでした。修了率だけでは語れない、たくさんの重要なエッセンスがこのデータの分析で見えきましたし、言葉の定義についても再考することができました。
津崎:「プログラム修了率100%!」を掲げ、数字を一目散に追いかけることで起こる弊害もありますね。全員が難なく修了できるレベルのプログラムを目指すのか?それとも「ゲネプロ=最終リハーサル」にふさわしい、本当の意味での研修・鍛錬の機会を提供し、離島・へき地で闘える医師の育成を目指すのか?これは、大きな違いだと思います。
研修プログラムの成果を測る上で、エビデンスは重要です。定量データは当然追いかけますが、数字の裏にある経験、感情、知識などを質的研究(丁寧なフォローアップやインタビュー)で明らかにしていくことも非常に大事だと考えています。プログラムの進化の過程や、研修生の姿の成長が立体的に見えてきますね。
おわりに
初回は、RGPJのプログラムの成果を振り返りながら、「リテンション」の定義やプログラム評価でできることについて触れてみました。
第2回目以降は、離島・へき地医療で「これなくしては語れない!」というクラッシックな研究論文、プライマリ・ケアに関する論文、離島・へき地のコンテクスト(実情)、システマティックレビュー等のメタ研究から見える世界の潮流などについて、紹介していきたいと思います。
離島医療に携わる医師と評価学の研究者が対話をしながら研究を進めたら、どんな世界が広がるのか?専門領域もバックグラウンドも異なるからこそ起こる、思考の冒険や、違う角度から掘り下げるからこそみえる普遍性のようなものを、研究の呼応を通じてウェブ上で展開していきたいと思います。みなさまにも楽しんでいただけますと幸いです。
齋藤学(RGPJプログラム・ディレクター/下甑手打診療所所長)
津崎たから(RGPJ Research &Evaluation Specialist/Interdisciplinary Ph.D. in Evaluation, Western Michigan University)
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