『ウェビナー報告日誌「Specialist Lecture」編 vol.2 ―「耳鼻科の手技」―』

 

専門的な知識や手技への理解を深め、総合診療医としての日々の診療に還元することを目的とした各科専門医によるオンライン講義『Specialist Lecture』。

 

今回の講義では、東京にある高野台いいづか耳鼻咽喉科の院長である飯塚 崇先生に講師をお願いしていましたが、先生が体調を崩されてしまったため、急遽ゲネプロのチーフメンターである山口 卓哉先生が講師を務められました。

 

 

 

 

さらに今回は、益田医師会からの強力な助っ人として神﨑耳鼻咽喉科医院の院長である神﨑 裕士先生もコメンテーターとして参加され、有用で実践的なアドバイスで適宜講義をサポートしてくださいました。

 

 

以下に、今回の講義の概要を共有させていただきます。

 

 

 


 

 

押さえておきたい耳鼻科手技 TOP4

 

 1.鼻出血

 

 2.耳垢除去

 

 3.異物除去(外耳道異物・鼻内異物・咽喉頭異物)

 

 4.扁桃周囲膿瘍

 

 

 

1.Tips on【鼻出血】

 

処置に使用する器具

 

・鼻鏡(しっかりと使い方をマスターしておくべき)

・ヘッドライト(あると便利)

・可吸収性止血剤、軟膏付きガーゼ

・焼灼器具(バイポーラ)

 

 

処置の方法

 

Plan A:用手的圧迫止血

 

Plan B:ボスミン綿球による止血

 

Plan C:ガーゼタンポンによる止血

 

Plan D:焼灼止血

 

Plan E:バルーンによる止血

 

 

各処置についての補足

 

A-1.基本的には、患者自身に圧迫してもらい、止血を試みる。専門家に引き渡すまでの「繋ぎ」的な形で用いることもある。

 

B-1.ティッシュによる代用は、鼻の中にティッシュが残ってしまうため避けるべき。また、硬い綿球の使用も避けるべき。大きめの綿球をほぐしてから使用すると良い。

 

C-1.奥からの出血時に用いる。耳鼻科専門医でも難しい処置。最初に入れたガーゼの先端を軽く鼻先から出るように調整してから、その上に重ねていくようにして詰めていくと良い。

 

C-2.最初から全部詰めてしまうと、どれが最初に入ったかが分からなくなってしまう。また、一番最初に入れたガーゼを引き抜くことで、他のガーゼもまとめて一気に取りやすくなる。

 

D-1.出力に関しては、器具本体に「焼灼用」という数字が掛かれているため、その数字に合わせて設定すればよい。高周波の場合は「3.5」。ただし、メーカーによって全部異なるため注意。

 

D-2.出力が適正か分からない場合は、石鹸または濡れたガーゼなどに器具を押し当てた際に「じゅっ」という音がしたらOK。「ちっ」という音の場合は出力が強すぎる合図。出力が弱い分には問題ないが、強すぎるのは危ない(怖い)ので要注意。

 

D-3.外科用の焼灼器具には、加熱される部分がコーティングされていないものがある。間違って外科用のものを使ってしまうと、鼻の入り口を焼いてしまうため要注意。耳鼻科用は先端の数ミリだけが露出しているタイプで、処置にはこちらを使うこと。

 

E-1.尿道用バルーンでも代用可。鼻用バルーンは、耳鼻科専門医でもあまり使ったことがない。

 

 

その他の補足

 

1-1.出血点を見つける際には、必ず自分の顔よりも患者の顔を上に置くようにし、患者の鼻を下から覗き込むようにして探していく。上から診ても、出血点は分からない。患者の下から奥のほうまで覗き込むような形で、出血点を探していくこと。

 

1-2.座位で治療できないケースにおいては、患者を横向きにした状態で出血点を探るようにする。その後、患者の容態が回復したら座位にして、改めて出血点を探っていくとよい。

 

1-3.鼻出血の処置において、塗布麻酔だけで焼灼してしまうと痛い。表面麻酔だけでは痛みを強く感じる人が多いので、注射でしっかり麻酔してあげた方が患者さんに優しい。特に子供の場合、二、三秒で局所麻酔を済ませてしまった方が、患者も医者も楽。

 

 

2.Tips on【耳垢除去】

 

処置に使用する器具

 

・耳鏡

耳垢鉗子 / 耳処置用麦粒鉗子

耳洗銃

 

 

処置の方法

 

Plan A:外耳道骨部の耳垢の場合(乾性耳垢)

 

Plan B:耳垢栓塞の場合(乾性耳垢)

 

Plan C:耳垢水・点耳薬(乾性耳垢)

 

Plan D:耳洗銃(乾性耳垢)

 

 

各処置についての補足

 

B-1.鉗子や麦粒鉗子を用いないと除去は難しい。特に麦粒鉗子は非常に便利なので、一つは持っておくとよい。ピンセットの入らない場合などに、特に役に立つ。麦粒鉗子はかなり高価だが、先端が匙型になっているタイプは安く手に入る。

 

C-1.「37.0℃ ±7℃」までは、患者はめまいを起こさない。それ以上(あるいは以下)だと、三半規管で対流が起こってしまい、めまいが起こってしまう。「温めない・冷やさない」という範囲で行うことを心掛け、できるだけ液温を体温に近づけてから処置する。

 

D-1.除去するための手段というよりは、あくまで耳垢を柔らかくするための手段。

 

D-2.過酸化水素水を耳垢の周辺に浸すようにすると、耳垢が離れやすくなる。耳垢に隙間を見つけながら、過酸化水素水を少しずつ入れていく。特にねばねばしたやつ(軟性耳垢)の除去は難しく、鉗子だけで綺麗に取り除くのは難しい

 

 

その他の補足

 

2-1.耳鏡については、電気式のものはよく見えるけど、処置できない点がネック。小さい耳鏡の方が耳に入れやすいが見えにくいため、大きい耳鏡の方がおすすめ。ライトや拡大鏡と併せて使うとより効果的なのだが、使いこなすのは専門医でも難しい。

 

2-2.耳洗銃については、20ccの普通の注射器で十分に代用可能。その場合、先端部をエラスター針(外套)に変えて用いる。専用の立派なものはあまり必要ない。

 

2-3.耳洗銃では、耳垢は取り除けない。海水浴で入った砂やガラス片などを洗い流したり、中耳炎で膿が大量に溜まっている場合などには、膿を洗い流したりすることもある。耳垢の除去は、まず無理。

 

 

3.Tips on【異物除去】

 

処置に使用する器具

 

・鑷子

・耳用小鈎(あると便利なので、一つは持っておくとよい)

喉頭鉗子

・生検用内視鏡

 

 

処置の方法(耳内異物の場合)

 

Plan A:耳垢鉗子や吸引による除去

 

Plan B:洗浄による除去

 

Plan C:耳用小鈎による除去

 

 

各処置についての補足

 

A-1.吸引管による除去は、まず無理。綿棒の先端を切って水平にならし、その面に瞬間接着剤を付けて取り除く方法がある。つまようじだと上手く異物に接着できず難しい。

 

A-2.外耳道異物で遭遇する頻度の高いものの代表例にBB弾があるが、あまり極端に頻度の高いものなどは特にない。

 

C-1.虫が耳の中に入った場合、外耳道いっぱいにお尻が見える。ゴキブリなどは固いから引きずり出しやすいが、蛾は鱗粉を耳内に鱗粉を撒き散らすため対処に困る。蛾の鱗粉は、きちんと洗浄してあげる必要がある。

 

C-2.耳内に入り込んだ虫を殺す場合、キシロカインをスプレーするのが一般的な手法。水やお湯などで水責めにしたりしようとすると、ゴキブリなどの硬い体をもつものは暴れて患者が痛がる場合があるので、一気に殺してしまった方がよい。

 

 

その他の補足

 

3-1.耳用小鈎を用いる際は、内側の尖った先端部を絶対に外耳道側に向けないように注意すること。外側の湾曲部を耳鏡のふちに沿って動かすように用いると、操作しやすいのでおすすめ。耳用小鈎の扱い方の練習方法として、パンの中の干しブドウを取る方法がおすすめ。

 

 

処置の方法(鼻内異物の場合)

 

Plan A:耳垢鉗子、鑷子、吸引管による除去

 

Plan B:鼻息で吐き出させる

 

Plan C:耳用小鈎による除去

 

 

処置の方法(咽喉頭異物の場合)

 

3-2.魚の骨が多い。鼻から入ったものは、鼻から取るのが鉄則。ただし、あまり大きなものだと、鼻腔に引っかかって落としてしまうので、要注意。口からだと、異物の大きさは問題にならないが、操作しづらい。

 

3-3.扁桃腺に刺さった異物の「深さ」については、患者の自覚症状はあまり当てにならない。「右か左のどちらに刺さったか」は参考になるため、確認するとよい。

 

 

4.Tips on【扁桃周囲膿瘍】

 

処置に使用する器具

 

・シリンジと針

扁桃周囲膿瘍切開刀

尖刃のメス

ペアン

 

4-1.扁桃周囲膿瘍切開刀については、先端の鋭いハサミで十分に代用が可能。むしろ、ハサミでの処置が一番安全。また、処置の際には必ず麻酔をすること。一番腫れているところに麻酔するのがよい。

 

4-2.先端を「5.0mm」位切ってから、後は鉗子で広げてあげて排膿させるのが一番安全。なお、扁桃の下極は、血管との距離が近いため、専門医でも怖いからあまり切開したりしない。

 

 

 

Q&A:【研修生から寄せられた質問】

 

Q1.米学会が、耳掃除するなと奨励しているが、これに対して神﨑先生はどのようにお考えでしょうか?

 

A1.患者には、「耳掃除はしないように」と指導している。

 

 

外耳道にはそもそも排泄機能が付いており、正常であれば2ヶ月ほどの時間をかけて耳内の不要物は外に排泄される。

 

しかしながら、外耳道を下手に掃除してしまうと、その自浄作用が阻害されてしまうことになるため、耳掃除はあまり推奨できない。ただし、自分は時々してしまう(笑)

 

 

 

 

Q2.「魚の骨が喉に刺さった」と訴える患者を診る際には、どのようにして刺さった骨を発見すれば良いのか?

 

A2.患者にまず、左右のどちら側に刺さっている感覚があるかを明示してもらう。

 

この作業を省くと、左右両方を診なくてはならなくなるため手間が倍かかってしまうことになる。

 

 

刺さっている個所の「深さ」に関しては、「喉仏の下部」か「喉仏の辺り」に刺さっている感覚があると言われた場合、その「2.0cm上」位までは確認する必要がある。

 

また、喉仏よりもはっきりと下を示された場合、食道に刺さっている可能性が出てくるため、慎重に対処する必要がある。

 

 

刺さっている個所が「左右のどちらか」と示された場合、食道に刺さっている可能性は低い。一方、「真ん中」と言われた場合は、食道に達している可能性までを考えた方が良い。

 

食道に骨が刺さっている場合、一緒に食べたネギなどのカスが引っかかっていたり、カスが周囲に溜まっていたりすることもあり、見つける際の手がかりとなることもある。

 

 

 

そのほか、鯛や鯖と言った骨の大きめの魚の場合は、しっかりと納得いくまで確認しているが、アジやイワシなどの小骨ならば、最悪見つからなくても何とかなる。

 

なお、骨が喉に刺さった際の代表的な民間療法である「ご飯丸のみ」は、やめるように指導している。

 

 


 

 

当初は、サポート役としてご参加くださる予定だった神崎先生でしたが、惜しくも病欠されてしまった飯塚先生に代わり、今回の講義では最初から最後まで獅子奮迅の大活躍。

 

長年にわたり経験値を蓄積してこられたが故の有益かつ実践的な助言や、つい見落としがちな注意点など、非常に多岐に渡ってとても多くの知識を惜しげもなく研修生たちに共有してくださったおかげで、研修生にたちにとってもとても実りある時間となったようでした。

 

 

 

 

 

 

The Specialist Lecture, a regular monthly webinar for RGPJ registrars focusing on lecturer’s specialty, was conducted again this month.

 

 

This time, we had invited Dr. Takashi Iizuka as a lecturer and ENT, his specialty, became the theme. Unfortunately, however, Dr. Iizuka was compelled to be absent from the lecture owing to bad health.

 

On the other hand, fortunately we had also invited Dr. Hiroshi Kozaki, a veteran ENT specialist working in Masuda-city, as a commentator. Thankfully, he willingly received an offer from us and gave a lecture to the registrars as a substitute for Dr. Iizuka.

 

 

For your information, the gist of the lecture are as follows:

 

 

 

The List of the Need-to-Know ENT Procedures 

 

 

 No1.  Treatment of Epistaxis

 

 No2.  Cerumen Removal

 

 No3.  Foreign Body Removal

 

 No4.  Treatment of Peritonsillar Abscess

 

 

 

 

Just as expected of a vastly experienced expert, Dr. Kozaki precisely gave registrars tips on what they need to know and careless mistakes many doctors often tend to make.

 

Actually, everyone seriously bent their ears to the lecture and strive to absorb a lesson as much as possible. Also, registrars provoked questions at the end of the lecture and Dr. Kozaki provided them with specific answers.

 

 

 

All thanks to everyone at the webinar, it seemed that they were able to gain quality time this time, too.

 

 

 

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