確率 -北海道-
ここ数年、年1回のペースで、
1週間ほど北海道を車中泊でブラブラするのが恒例になった。
写真は苫前町のベアーロード。
街道の両脇には、ほのぼのとした「くまのぷーさん」のような絵が点在している。
残り距離を示すことで現地へと誘導する。
そこにあるのは一体何なのか。
この流れでいけば、そこはテディベア王国のようなメルヘンの世界なのか。
しかし到着した世界は‥
ここは日本史上最大の死傷者を出した獣害、
「三毛別羆事件」の復元現地である。
この巨大な熊は作り物にしては一瞬たじろいでしまうような迫力がある。
小さな子どもはひきつけを起こすか、
またテディベア王国を期待していた夢見る子ちゃんなら失禁間違いなし。
この写真は昨年訪れた時のものだが、
現地にはこのような立て看板があった。
ここは過去の事件現場でありながら、
現在進行形のヒグマの出没地なのである。
私が訪れた時はライダーが一人いたが、
私と入れ替わりで帰ってしまった。
その時の恐怖は今でも忘れない。
しかし、ベアーロードとこの現地とのギャップは冗談を越えている。
苫前町の観光課がこのギャップを意識的に演出しているのならお見事である。
今年は本州でもツキノワグマの被害が多発している。
今回は道東を中心に周ったが、
一人で人里離れた地域を散策する際は常に熊の恐怖がつきまとった。
交通事故に遭う確率と熊に遭う確率はどちらの方が高いのだろうと思ったのだが、
前提数字を知らないので諦めた。
2年前は三毛別事件のことも知らず、
何一つ気にしないで北海道の秘境等を散策していた。
人というか、私の危機意識は甚だいい加減なものである。
霧多布湿原にある浜中町は漫画家モンキー・パンチの出身地である。
町を走るとキャラクターに出会う。
霧多布周辺の早朝の景色は、何か胸につーんと響くものがあった。
この風景はどこかで‥‥。
あっ!と思った。
ルパンからホームズが連想され、
そして少年期に読んだシャーロック・ホームズ集、
『バスカヴィル家の犬』の風景がここ霧多布に似ているのだ。
それはスコットランドの荒涼たる風景である。
もちろん小説なので風景は私の勝手な想像であり、
スコットランドは未だに行ったこともない。
小説の中の風景は、襟を立て寒々とし、
不安に襲われながらうつむき加減に歩く姿を想起させる。
この辺り一帯は名前の由来通り霧の名所である。
釧路は年間でおよそ100日霧に覆われるといわれている。
これもロンドンと重なり、記憶を呼び起こすきっかけの一つとなる。
しかし今回の旅行では霧を一度も見ることがなく、
霧の摩周湖も晴天であった。
この霧に遭わない確率もなかなかのものである。
一人旅は誰と話すわけでもないが、頭の中は熊を怖がったり、
少年期が呼び起されたり、結構忙しい。
今回前半と後半で大いに語り大いに飲む時間を持てた。
どちらも今回初めて会った人なのだが、
前半はゲネプロの一期生として志願してくれた高橋先生。
高橋先生は、今年の9月までタイのマヒドン大学熱帯医学校に、
熱帯医学の勉強のため半年間留学していた。
そして11月からタイ・ミャンマーの国境沿いにある
Mae Tao Clinic(メータオクリニック)にて約4か月、
ボランティア医師として活動するのだそうだ。
その合間の10月に、釧路で会ったことになる。
ふと思ったのだが、自分が北海道に行きたいと思った時に、
高橋先生が釧路にいるという確率は何%位なのだろう。
答は出ないのでやめておく。
高橋先生が連れていってくれた「炉ばたひょうたん」はまさに私好み。
70代のおばあさんが一人で切り盛りをしている。
自分で天日干しをしているという干物は何を頼んでも美味しい。
高橋先生とはおよそ5時間語り合ったが、それでも時間が足りない。
まるで旧知の友人と再会したがごとく時間が過ぎ去った。
特に印象に残ったのは、ゲネプロ研修の話題になった時、
「もちろん、プログラムには興味があります。
でもそれ以上にゲネプロの人達と一緒に仕事をしてみたら、きっと楽しいだろうな」
とゲネプロに対する期待を話してくれたことだ。
私は内心、大丈夫だろうか‥、今日で発言撤回しないだろうか、
と背中から汗が流れた。
高橋先生との2店目「つぶ焼かど屋」
高橋先生が勤務する釧路協立病院
釧路協立病院から高橋先生が出張している道東勤医協桜ヶ岡医院
(表札が無いので、本当にこの建物なのか不安)
北海道最終日の夜は、元小樽の人力俥夫、
現在はゲストハウス「山小家」のオーナー山岡くんと酒席を共にした。
写真からもわかるように、底抜けにいい奴。
1店目は「三四郎」でホルモンをつまみに一杯。
2店目は山岡くんの紹介で「天海(あまみ)」。
この店がやたら美味しい。
私が真だちの天ぷらを食べながら「なんて美味しいの」と唸ると、
山岡くんは満面の笑みになる。
なんだかわからないが、人を幸せな気分にさせる。
このような人はなかなかいない。
出会える確率は‥‥。
山小家に戻り、宿を案内してくれた。
部屋、お風呂、トイレ、掃除が行き届き、
私が抱いていたゲストハウスのイメージを覆した。
私は駅前のホテルをとったのだが、残念、ここにすればよかった。
ちなみに料金は1泊3000円、2泊目からは2000円。お勧めの宿だ。
今回の北海道では31カ所の病院、診療所を巡った。
地域医療振興協会の「へき地ネット」で検索した病院を巡っているのだが、
北海道は106施設掲載されている。
昨年と合わせ、1/3以上訪ねたことになる。
失礼な言い方になるが、
こんな所にとか、この建物で大丈夫かとか、驚くことがたびたびある。
また、ヘリポートまでの距離を心配したり、
3種類以上の診療科目があると「ほぉー」と感心してみたり、
確実に診療所フェチになりつつある。
そしてこの瞬間およそ100人の医師が
広大な北海道の地域を守っているのだと思うと頭が下がる。
中には初めての症例と向き合い汗を流している医師、
内科出身なのに骨折の治療をする医師、
へき地診療所には、へき地診療所ならではのドラマがある。
北海道の最終日は神恵内村の「勝栄鮨」に行くと決めているので、
積丹半島の診療所を紹介して閉めようと思う。
とにかく豪快な寿司である。おまかせ3200円。
今年の3月に小樽掖済会病院付属古平診療所は閉院し、
5月1日から医療法人恵尚会の運営となる。
放射線科を含め6科があり、病院規模の診療所である。
写真は薄暗く寂しいイメージだが、
泊村は北海道電力の原子力発電所がある。
当然のことながら村の財政力指数は高く、日本で№2(2012年度)である。
今回確率というテーマを簡単に選択してしまったが、
よくよく考えると確率とは奥深いものである。
それこそ賭け事から政治経済まで、多くの現象に確率は関わっている。
さらに哲学的思索の対象にもなりえる。
これも当たり前の話なのだが、
確率には人智が及ぶものと及ばないものとがある。
サイコロの目が出る確率に私が介在することはできないが、
高橋先生や山岡くんに出会える確率は私次第だという面もある。
天に任せる前に何ができるのか?
4月からいよいよゲネプロ研修がはじまる。