臺灣旅行是最好的
6月24日台湾の台東市沖にある緑島に向かった。
離島診療所巡りをしようと思い立ち、
北海道の天売島を訪ねたのは去年の7月である。
今回の緑島はちょうど10島目にあたる。
ゲネプロメンバー、ゲネプロサポーター計7名で島に上陸した。
緑島は政治犯を収容した刑務所がある島として有名であったが、
現在は若者で溢れるリゾート地になっている。
一周20㎞、人口3000人ほどの島に診療所が2箇所ある。
先ず最初に訪れたのは、安康診所。
診の字が無ければ、ここを診療所だと気付く日本人はいないのではないか。
驚いたのは診療時間の長さだ。
朝7時に始まり、夜は9時に閉まる。
次に訪れたのは、緑島郷衛生所。
こちらは8時30分に始まり、夜は9時まで。
病院内の写真も気持ちよく撮らせてくれた。
ヘリ搬送や船による搬送の手順が壁に示してあった。
レンタカーで島を1周すると、
刑務所跡地は人権記念公園になっていた。
その先にある人権文化園区の岩肌に書かれていた
「滅共復國」という字が目に飛び込んできた。
直訳すると「共産党を滅ぼし、国を復興しよう」というスローガンだが、
これは毛沢東の中国共産党に追われた蒋介石率いる国民党が、
台湾に侵攻して掲げたものである。
それ以前の台湾は日本に統治されていた。
台湾の歴史は外来政権の支配による歴史である。
オランダ、清朝と続き、日清戦争で台湾は割譲され日本の植民地となる。
台湾人、台湾原住民は初等教育を受け着々と日本化されていった。
しかし、「霧社事件」に代表されるような武力による抗日運動も起こった。
今回台北でレンタカーを借り、1週間をかけて台湾を1周したが、
各地で日本統治下の史跡を見ることができた。
支配側と非支配側が同じ目線に立つことは難しい。
しかし、この1週間、巡ったどの地域にも、
親近感を感じさせてくれる人たちがいた。
基隆のレストランで注文を取ると、
「それは多すぎる」
「口に合うかどうかわからないので一つにしたら」など
私たち目線でアドバイスをくれる。
言葉は通じなくても、
誠心誠意さがこれでもかと伝わってくる。
入国したその日に台中で、
許先生が美味しい生ビールをご馳走してくれた。
許先生は、台中在住、台中の町から1時間ほど山に入った
埔里の町にある国立曁南国際大学で教鞭をとり、
埔里キリスト教病院で医師として働いている。
許先生
台湾生まれ。イギリスで修士、ベルギーで医学博士を取得した後、シンガポールで内科、京都にて外科のトレーニングを積む。オーストラリアで小児医療、フライングドクターのトレーニングの経験も持つ国際的なへき地医である。台湾南投の山岳部でモバイルクリニックを運営しながら、台湾の研修医に地域医療の論文を書かせることに情熱を傾けている。
許先生に台湾事情を聞いてみた。
「一昨年、学生による立法院占拠がありましたが、
台湾の学生は政治に対する関心が高いのですね」
許先生「そんなことはありません。
あれは一部の学生であり全体で捉えると政治的関心は低いです」
「今後の台湾についてですが、一党独裁の中国とどのように関わるのですか」
許先生「独裁を単純に悪いことだとは思いません。
独裁は正しいことをスピーディに行うことができます」
できれば許先生から台湾人としてのアイデンティティを聞いてみたかったのだが、
許先生の俯瞰した見方は学者であり、国際人のものであった。
もしかしたら通訳をしてくれた中国籍の月順さんに配慮をしたのかもしれない。
そうだとするならば心優しい。
もし日本の至る所で日本人にあなたは何人ですか、
と聞いたら100%日本人だと答えるだろう。
では台湾ではどうだろうか。
多くの人は台湾人と答えるだろうが、
中国人ですと答える人もいるはずである。
このことそのものが台湾の歴史を物語っている。
台湾、中国、日本。
この三国を政治的に見るなら、緊張関係にあるといえる。
しかし今回、許先生、月順さん、私たちが、
共に過ごした時間には国境はなかった。
許先生の齋藤学に接する姿勢には暗黙の支援が感じられる。
許先生に日月潭や国立曁南国際大学を案内していただき、
さらに昨夜のビールに続き昼食もご馳走になった。
許先生にゲネプロについて聞いてみた。
「先生はゲネプロの活動をどのようにとらえていますか」
許先生「ゲネプロの活動は大変意義あるものです。
しかしその道のりは厳しいと言えます」
長きにわたり地域医療に向き合ってきた許先生の発言は重みがある。
地域医療には進行する過疎化、医師の定着、需要と供給の経済バランス、
地域全体の活性化など、国は違えども抱えている問題は共通している。
今回のゲネプロ台湾視察旅行の一番の成果は何かと聞かれたら、
即答で「月順さんと共感しあえたこと」だと答える。
ゲネプロという枠も国境も年齢も超えて、
一人の人間として尊敬しあえた。
夜市の中心にある宿、少数民族の宿、離島の宿、雑魚寝をした温泉宿。
台湾のあらゆる面に一喜一憂しながら共通体験を積み重ねお互いを理解する。
これぞ旅行がもたらす最大の効果である。
そういえば、帰国前夜にシクシク泣いている人がいたような・・・。